メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

第九話 ざるそばに摂り付かれた男

2009年03月22日 | LAWSON CALLING
---数年前僕はとあるコンビニエンスストアの深夜バイトをしていた。
住宅街にあるコンビニだからそれほど客は多くない。
毎日同じ客が同じものを買ってく、そんなコンビニだった。
深夜1時から朝9時までの間、店員は僕一人だけだった。
断っておくが僕は反社会的な思想を持っていた。---

街は群像劇の塊、コンビニはその交差点

不思議な事に、
誰にも平等に人生の時間は与えられている。
誰にも平等に好みが与えられている。

ざるそばのシーズンになるとそいつは現れた。
毎日ざるそばを買って行く男。
うだつの上がらない40歳前後のサラリーマン。

そいつは店内に入ると一目散にざるそばのある惣菜コーナーへ向かいざるそばを手にする。

ざるそばってそんなに深いものなのか・・・?
毎日いけるものなのか・・・?


ところでコンビニはふた月に一回ほどのペースで業者さんが来て、店を封鎖し床掃除、ワックスがけをする。

時間にして30分程、店の入口に「清掃中」と書かれた黄色い立て札を立てて客の侵入を防ぐ。

あなたも見たことくらいはあるでしょう。

空気の読めないアホはその立て札があっても入ってきたりする。

店内は尋常じゃないくらいぬるぬるなのでマジで危険なのだが、お構い無しに入ってくる客のせいで、我々は応対をせねばならないのである。

案の定転んでえらいこっちゃな人もちらほら。

しかし基本店は開店休業なので我々はバックルームで優雅に雑誌を読みながら、ジュースを飲んで一服という至福の時間を送る。
防犯カメラの映像を観ながら、そんな感じでのんびりする。

時々アホが入ってきたらレジに立つというスタイル。


そんな時間にざるそばに摂り付かれた男はやってきた。

多少空気を読んで、店内には入ってこない。

驚いた事に入口からレジに立つ僕に向かって
「すいません、ざるそば下さい」
と千円札を差し出しているのである。

ええ~!そんなに食いたいかね、ざるそば!

多少憤りは感じたものの、空気は読んでいるので、ドSの僕も仕方が無く彼の望みを叶えてあげた。

入口でお会計をしたのは後にも先にもその一回だけであった。

何が彼をそうさせたのか?
その執念たるは何のごたるですか?


ひょっとしたら一年中来ていたかもしれないのだが、
不思議な事にざるそばシーズン以外の彼の記憶がない。


(2年3ヶ月ぶりの更新でした)
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