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浮世絵とアニメ ~『漫画の殿堂開設計画』に思う~

2009-06-28 10:28:00 | 徒然なるままに
6月28日(日)

浮世絵とアニメには共通点がいくつかある。

一番の共通点は、共同作業ということだ。
浮世絵は、絵師、彫師、刷師という、それぞれの職人がプライドをかけ、技を競い合って、1枚の作品を完成させる。
アニメも同様で、まずは、脚本があり、作画監督、美術監督の下、原画、動画、彩色、背景部門、CG部門、撮影、編集、音響効果、声優など各エキスパートが技を競い合う。そうして1本のアニメーションフィルムが出来上がる。
しかし、画質や物語のテーマや構成のクオリティーを高めようとすればするほど時間と人材と資金が必要になってくる。
それは、浮世絵も、アニメも、どんな芸術でも共通していることだろう。

2番目の共通点は、一般大衆向けであると言うこと。安価に手に入るという点、等身大の人物が主役だったり、アイドル的な人物が主役だったり、より身近な日常生活から、ファンタジーや歴史的なものまであらゆるジャンルの登場人物や舞台を表現していると言う点は、実に共通している大衆娯楽だ。
新作が出るたびに話題を振りまき、収集家がいて、優れた絵師にはスポンサーが付く。

3番目の共通点は、国内より海外での評価が高いと言うこと。

1873年のウィーン万博に始まった『ジャポニズム』はその後の西洋美術を大きく変えていく。

『ジャポニズム』とは、ヨーロッパで見られた日本趣味・日本心酔のこと。
ジャポニズムは単なる一時的な流行ではなく、当時の全ての先進国で30年以上も続いた運動であり、欧米ではルネサンスに匹敵する、西洋近代的な美意識と科学的パースペクティヴの、大きな変革運動の一つの段階として見られている。特に19世紀中頃の万国博覧会(国際博覧会)へ出品などをきっかけに、日本美術(浮世絵、琳派、工芸品など)が注目され、印象派やアール・ヌーヴォーの作家たちに影響を与えた。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

ゴッホは、パリ万博で広重の浮世絵に出会わなければ、あのゴッホの黄色も青も生まれなかっただろう。
モネやクリムトの絵、エミール・ガレのガラス工芸作品には日本美術の影響が色濃く出ている。

浮世絵(うきよえ)は、江戸時代に成立した絵画のジャンルである。「浮世」という言葉には「現代風」という意味もあり、当代の風俗を描く風俗画である。大和絵の流れを汲み、総合的絵画様式としての文化的背景を保つ一方で、人々の日常の生活や風物などを描いている。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

エキゾチックな文化への憧れもあるかもしれないが、広重や北斎の大胆な構図と緻密で鮮やかな版画表現は、油絵文化に大きな影響をあたえ、変革を起こした。

西欧文化に多大な影響を与え、評価されているとき、本家本元の日本での浮世絵の評価や扱いはどうだったのだろう?

大量の浮世絵海外流出は、日本人の認識不足からくる歴史的大失態と大損失だと思う。
幕末・明治時代、文明開化と廃仏毀釈で、日本古来の美術文化まで軽視され、切り捨てられていた。西洋の美術こそ本当の芸術であり、それを真似し、追いつけ、追い越せという風潮が蔓延していたことだろう。その中で、当時、日本の美術を愛し、守ろう、広めようとした外国人が、本国に持ち帰り、大切に保管していてくれたからこそ、今、完全な状態で私たちの目に触れることができるのだ。

時代を現代に移して。手塚治虫、ジブリアニメ、『ドラえもん』、『ワン・ピース』や『20世紀少年』などの人気はおそらく日本人の想像をはるかに超えるもので、高く評価されており、世界各国語に翻訳され、販売、上映されている。

今、日本のアニメはかつての浮世絵と同じ運命を辿ろうとしている。
いち早く日本のアニメの芸術性を認め、保護しようと立ち上がったのは、やはりフランスだった。
日本の漫画・アニメが量産される中、貴重な原画やフィルム、ゲームの基盤などが、売却、紛失、処分されて、きちんとした補完がされていないことを憂い、危機感を感じて、国費13億円をかけて『漫画館』を設立したのだと言う。
そこに大切に保管され、展示されている日本の漫画の原画やアニメーションフィルムは、まさに文明開化時代の浮世絵と同じ運命を辿ってはいないだろうか?

何年か経ったとき、国立西洋美術館で、『日本の漫画原画・アニメーションの里帰り展覧会』なんてものが催されているのかもしれない。

アニメを通して日本文化を知り、憧れを抱いた海外の人たちが、日本に漫画・アニメグッズの『買い物』旅行や、アニメ技術を学びにやって来ている。
そして驚くのだ。本家本元の日本での漫画・アニメへの偏見と、市民権のなさ、アニメーターたちの悲惨な生活の実態を知って・・・。

これほど海外で認められる文化を持ちながら、その歴史も実績も認識されず、評価もされず、それに従事する人たちの生活も保障されていないと言うのでは、当然のことながら、後進が育つ土壌作りは難しい。
安価な賃金で『外注』として頑張ってもらっていた韓国や中国のアニメーターたちのほうが、日本の技術をしっかり受け継ぎ、今や、自国のハイ・クォリティーなオリジナルアニメを制作している。
間もなく、日本は追い抜かされるかもしれない。

『漫画の殿堂』に、どういう根拠と内訳で120億円もの国費を使うのか分からないが、まずは、日本人の意識改革から始めなければ、ただの『ばら撒き』『国費の無駄遣い』と蔑視されて、廃止になりかねない。
海外で認められてから追随しているようでは、それこそ『猿マネ日本』と蔑まれるだけだ。

浮世絵海外流出の大失態を繰り返さないためにも、国家レベルでの対策を本気で考えてほしい。

中学校の美術の教育指導要領では、日本美術の鑑賞の大切さを謳い、漫画・アニメーションと言う題材は教科書にも載っている。教育現場はまた、思春期で一番漫画・アニメを身近に感じる子どもたちと接する場である。美術に限らず、あらゆる教科での、漫画・アニメの活用が可能な場でもある。

また、制作現場のアニメーターの人たちも、命削って制作している以上、第一線で頑張っているプライドをかけて、世の中の偏見や蔑視を凌駕するような素晴らしい作品作りを目指してほしい。
アニメ全盛期を戦い抜いてきたベテランには、ぜひ、その技術を国内の若きアニメーターたちにしっかり伝授してほしい。

そして、世の「漫画やアニメは、いい大人は読まない、見ない、そんなものに金や時間をかける必要はない」とおっしゃる方たちにお願いです。
ぜひ、良質のアニメを見てください。
まだ歴史の浅い芸術ではありますが、これからの日本を文化的にも経済的にも大きく支えて行ってくれる貴重な活力になるハズです。
思い込みだけで切り捨てないで下さい。
まずいところがあれば、改善点を指摘し、支援して下さい。
国費をかけても遜色のない芸術文化に一緒に育てて行ってください。
命を懸けてそれに応えようと頑張っているアニメーターたちやそれを目指す若者たちを応援してあげてください。
お願いします。