明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(604)原子力規制庁と経産省が原発防火の不備を指摘・・・なぜ?

2013年01月03日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130103 23:30)

年頭の毎日新聞2面と11面に、非常に示唆に富んだなニュースが掲載されました。2面の記事の見出しは「全国で10基超が防火に不備 可燃性ケーブルを使用」です。この記事の前半部分を引用します。

***

「火災対策上の不備が指摘される原発が、全国に十数基あることが分かった。原子力規制庁と経済産業省の関係者がそれぞれ明らかにした。配線に可燃性電気ケーブルを使用したり、安全上重要な機器が近接して設置されたりして延焼の恐れがあるという。
事態を重視した経産省資源エネルギー庁は既に調査を開始し、原子力規制委員会も近く電力各社からヒアリングする。経産省はケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがあると想定している。
原発の許認可を巡っては75年12月以降、安全上重要な部分に燃えにくい「難燃性」と呼ばれるケーブルを使用し、延焼を防ぐために適切な距離をおいて機器を設置することなどが定められた。ただそれ以前の原発には規制がなく、改善するかどうかは事業者任せで対策が放置されてきた。」

***

誰でもわかることですが、原発には非常にたくさんのケーブルが使用されています。火災などからこれらを守る対策として可燃性ではない「難燃性」のものを使うことが1975年に定められました。ところがこの新たな規制が、それ以前に作られた原発には適用されませんでした。
そのため1975年段階の火災に対する規制内容が適用されずに、その後、35年間以上も稼働してきた原発が10基以上もあったというのです。わたしたちの国の原子力行政のずさんさ、原発を稼働させることの危険性を如実に物語る事実です。

ではどの原発が「可燃性ケーブル」を使っているのか。毎日新聞2面に、「電力会社・発電所と号機・許認可年」の順で掲載された表では、次の13基であると指摘されています。
東京・福島5号機・71、関西・美浜1号機・66、美浜2号機・68、高浜1号機・69、高浜2号機・70、美浜3号機・72、大飯1号機・72、大飯2号機・72、中国・島根1号機・69、四国・伊方1号機・72、九州・玄海1号機・70、日本原電・敦賀1号機(66)。
ただしこの表には廃炉が事実化した福島1~4号機が除かれています。そのため可燃性ケーブルで稼働していた原発は実は17基もあったことが分かります。本当にひどいことです。
これらの原発が集中していた福島原発が、地震と津波に耐えられずにすでに大崩壊したわけですが、若狭湾の原発銀座でも、関西電力の7基と日本原電の1基、合計8基の可燃性ケーブル使用原発が長らく稼働させられてきました。福島原発事故後もです。地域の安全性を無視した反社会的な行為です。ぜひとも抗議を行いたいものです。

重要なのは、これらの原発は稼働していなくても、各プールの中に大量の燃料棒が残っており、ケーブルが火災にあった場合に、たちまち非常に危険な状態に追い込まれてしまうということです。そのために、再稼働のためではなく、燃料プールの安全確保のために早急に対策を施すことが必要です。
しかもこの中には大飯原発1号機、2号機も含まれています。現在、その横で3号機と4号機が稼働中です。これ自身がきわめて危険な構造です。この点からも大飯原発は即刻、運転を停止させるべきです!
記事にはこの規制をきちんと適用した場合、「ケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがある」と経産省が想定しているとも報じられています。このことを頭に留め置き、今後これらの原発へのウォッチを強化する必要があります。

しかし一方でこの記事を読んでいて、多くの方が違和感も持たれたのではないかと思います。これまで37年間もこの事実を見過ごしてきた側であり、なおかつ原発再稼働を切望している経産省が、なぜこのような指摘を行ったのかです。
実はこの点で、毎日新聞やより切り込んだ非常に重要な内容を報じています。それが同日の11面に関連記事として掲載されています。重要なスクープだと思うので、当該箇所を引用します。

***

「一方、経産省の積極姿勢には裏がある。関係者は「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と明かす。安倍政権の脱「脱原発」路線を見越した動きだ。しかし、安全と新増設は次元のまったく異なる問題だ。取引材料のように使うことは許されない。」

***

この記事は「高島博之、松谷譲二」記者の署名で書かれていますが、両記者の鋭い視点での取材に拍手を送りたいです!

なぜこれが重要なスクープなのか。それはここから、経産省や原子力村の原発延命策、新たな推進策の手法が浮かび上がってきているからです。実は既存の原発は、指摘すれば問題点はいくらでも出てくる。それを一番知っているのはこれまでそれを放置してきた経産省の側です。原子力規制庁にもこうした人物が多く入っています。
その経産省や規制庁の側が、あたかも原発の危険性を監視するかのような指摘や発言を行い、市民の中に強く広がっている原発への危機意識に沿っているかのようなポーズを現出させる。そして原発の危険性を、原発そのものの構造的な欠陥にではなく、「古さ」に転化し、新しい「安全な原発」への「転換」を主張していくという手法です。
このことで市民の原発への不安や危機感との衝突は回避し、むしろあたかも電力会社に厳しい立場にあるかのような振る舞いをしながら、新しい原発の認可に歩みを進めようというのです。毎日新聞の記事はこうした「裏」を、関係者の証言によって暴いていて見事です!
さらに記事は、こうしたケーブルの火災事故が、これまで国内外で頻発していることも報じていて、大変、参考になります。

しかしなぜなのかはわかりませんが、この11面の記事はネットには載っていません。大変、残念です。というか、本来、こちらこそが2面に載せるべき記事だと思うのです。既存の2面の内容は、経産省の発表内容に過ぎないからです。
ここに現場で奮闘する記者さんたちと、真に重要なことをハイライトさせることのできない毎日新聞デスク陣、首脳陣との暗闘を垣間見てしまうのは、僕のいきすぎでしょうか。ともあれ今回は、新聞記事はネットだけで確認するのでは弱いと痛感しました。記者さんが必死に出稿した記事を紙面から拾わなくては。といっても毎日、紙面をみることはとてもできないのでもどかしいですが・・・。

ともあれ非常に重要な内容なので、2面と11面の記事の双方をご紹介します。私たちは今後、経産省や原子力規制庁をこそ、ウォッチしていかなくてはなりません。その際の重要な示唆としてシェアしたいです。

*****

原発:全国で10基超が防火に不備 可燃性ケーブルを使用
毎日新聞2013年1月1日
http://mainichi.jp/select/news/20130101k0000m040076000c.html

火災対策上の不備が指摘される原発が、全国に十数基あることが分かった。原子力規制庁と経済産業省の関係者がそれぞれ明らかにした。配線に可燃性電気ケーブルを使用したり、安全上重要な機器が近接して設置されたりして延焼の恐れがあるという。
事態を重視した経産省資源エネルギー庁は既に調査を開始し、原子力規制委員会も近く電力各社からヒアリングする。経産省はケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがあると想定している。
原発の許認可を巡っては75年12月以降、安全上重要な部分に燃えにくい「難燃性」と呼ばれるケーブルを使用し、延焼を防ぐために適切な距離をおいて機器を設置することなどが定められた。ただそれ以前の原発には規制がなく、改善するかどうかは事業者任せで対策が放置されてきた。

電力各社に取材したところ、安全上重要な部分にビニールやポリエチレンなどの素材でできた可燃性ケーブルを使用しているのは全国50基のうち13基=表参照。ケーブル表面に延焼防止剤と呼ばれる特殊な樹脂などを含む塗料を塗っており、各社は「難燃性ケーブルと同等の性能がある」と説明する。
しかし規制庁と経産省の関係者は「延焼防止剤自体は燃えないが中の可燃性ケーブルは燃える。経年劣化もありうる。同等と認められず、防火上大半に問題があり、改修が必要だ」と話す。

制御棒の操作や炉心冷却、事故時の計器監視など「安全系」と呼ばれる重要な装置を作動させるシステムへの火災対策に問題があるケースもある。安全系では一つの電気系統で火災が起きダウンしても、もう一方を生かす「系統分離」が重視されている。
しかし、一部の原発では2系統の電気ケーブルがすぐ近くに敷設されたり、冷却用ポンプなど重要機器が並ぶように設置されたりして同時に燃える危険性がある。規制庁と経産省の関係者は、いずれも十数基で不備が見つかるとみている。

難燃性ケーブルと系統分離は規制委が7月までに策定する新安全基準に盛り込まれる見込み。ケーブルの長さは1基当たり1000~2000キロ。このうち安全上重要なものだけで数百キロある。改修が必要なら1年以上かかり費用も高額。コストが回収できず、廃炉に追い込まれるケースも想定されるという。【小林直、太田誠一】

★原発の火災対策 75年12月の通商産業省令(当時)で導入された。現行指針(07年12月)は(1)火災発生防止(2)検知・消火(3)影響の軽減--について「適切に組み合わせる」よう定めており、許認可時に例えば「(1)と(2)を実施すれば(3)は不要」と判断される余地を残す。
原子力規制委員会は(1)(2)(3)のすべてを実施するよう厳格化した新基準を7月までに作る方針。【小林直、太田誠一】

*****

対策適用外、放置
原発防災不備 事業者も強化に難色

東京電力福島第1原発事故後の新安全基準作りが進む中、規制側の原子力規制庁、推進側の経済産業省双方が十数基の火災対策に疑問を投げかけた事実は重い。現在稼働していない各原発のプールには大量の使用済み燃料がある。火災対策は必須で、各社は早急な対応を迫られる。

原発の火災としては75年3月に発生した米アラバマ州・ブラウンズフェリー原発1号機の事故が有名だ。1600本以上のケーブルが焼け、原子炉の安全性が確認できなくなった。国内の原子力関係施設でも67年~12年3月に136件発生しており、67年には日本原子力発電東海原発で5人が死傷。
07年には新潟県中越沖地震により、東京電力柏崎刈羽原発3号機の変圧器が燃えた。11年の東日本大震災でも、東北電力女川原発1号機で高圧電源盤がショートし7時間以上燃えた。

にもかかわらず、日本の対策は遅れている。今回問題が浮上した十数基の原発は、すべて75年以前に許認可された。同年に導入された火災対策の規定が過去にさかのぼって適用されなかったため、放置されてきたのだ。関係者によると07年以降、非公式会合の場で「原子力安全基盤機構」が対策強化を複数回提案したが、事業者が難色を示し実現しなかった。
新安全基準について議論する12年11月21日の有識者会議で規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員が「火災については『いいよ(遡及適用しない)』というのはいかんだろう」と2度も強調した背景に「今度こそ」という思いがにじむ。

一方、経産省の積極姿勢には裏がある。関係者は「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と明かす。安倍政権の脱「脱原発」路線を見越した動きだ。しかし、安全と新増設は次元のまったく異なる問題だ。取引材料のように使うことは許されない。【高島博之、松谷譲二】


 

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(603)取手の子どもたちの心臓検診で要精密検査が多数・・・健康被害との対決が問われている!

2013年01月02日 23時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130102 23:00)

昨年12月16日に福島市を訪問した際に、福島駅周辺で放射線計測を行いました。予想されたことでしたが、すぐに数値があがりだし、放射線管理区域の目安、0.6μSv/hを越えて、0.81μSv/hなどの値が計測されました。
このときの模様を、FACEBOOKに写真とともに掲載したところ、およそ半日で「いいね」が218人、「シェア」が285件になりました。(23時現在)胸が痛む写真なのですが、多くの方が福島の今に心を寄せていることがわかりました。
この記事を読んでくださっているみなさんにもこの写真をみていただきたいと思います。まずは以下のページをご覧ください。
http://www.facebook.com/toshiya.morita.90#!/photo.php?fbid=4613251007615&set=a.4505891643698.2165302.1182740570&type=1&theater

福島駅前が放射線管理区域に相当しながら、こうした事実が放置され続けていることを年頭においた上で、今日は昨年末に、取手の3つの市民グループが行った重要な発表について取り上げたいとおもいます。
内容は、取手で行われた小中学校の子どもの心臓検診に関するもので、2011年度に比べて、一時検査で「要精密検査」と診断された子どもが急増してるという内容です。
この発表は、東京新聞と常陽新聞がいち早く記事にしています。このうち東京新聞の内容を見ていくと、問題の検診を2012年度に受けたのは1655人であったことが分かります。そのうち要精密検査の診断を73人が受けたのですが、これは2011年度の28人の2.6倍です。中学生だけをみると17人から55人、3倍強に増えています。
また、心臓に何らかの既往症が認められる子どもの数も、2010年度の9人から、2011年度21人、2012年度24人と増えています。突然死の危険性が指摘されるという「QT延長症候群」とその疑いのある結果が、2010年度1人、2011年度2人から8人に急増しています。

さらに常陽新聞の記事を見ると、この検査は、小学1年生と中学1年生のみにしか行われていないことも分かります。市民グループの方たちは、この点も不安に感じて記者会見を行ったようです。
こうした会見を行った方たちの思いを詳しく知りたいと検索したところ、3つのグループのひとつの「とりで生活者ネットワーク」が、HPでこの発表に関するコメントを行っていました。みなさんともシェアしたいので全文を転載します。

*****

市民調査による「取手の子どもたちの心電図異常増加」報道発表について
http://www016.upp.so-net.ne.jp/toride-s-net/topics.html#press-heart

私たちは、放射能NO取手ネットワーク、生活クラブ生協取手支部とともに、この秋から、市内の学校検診での心電図検査の結果を、調査してきました。
その結果、事故前の3年間に比べて、事故後の2011年度、2012年度の子供たちに心臓の疾病・異常の増加がみられること、特定の疾病(心電図異常:不整脈)が増加していることに気付きました。
そして、12月25日に取手市の子どもたちの心臓病増加について、市の記者クラブを通じて報道公開をいたしました。

私たちが暮らす取手市は、茨城県の最も県南に位置し、川を挟んで隣は千葉県、福島第一原発からは茨城県内では、最も遠くにあります。
しかし、2011年3月14日~15日、風はこちらに吹き、3月21日、22日、あの3号機爆発時、放射性ブルームはこの県南に雨を降らせました。

現在、他の市町村の友人たち、他団体でも、学校検診結果の公開を求めているところです。
このような中での報道公開には、情報開示への悪影響など、躊躇いもありました。
しかし、原因はなんであれ、増加傾向にあることは事実であり、気付いた以上、黙っていてはいけないのではないか・・・
また、1次検査で要精密検査となりながら、精密検査を受診していない子供たちが、まだ多くいることから、早く受診してほしいこと、
そして、市には継続した健康調査を求め、この6月に立法化された「子ども被災者支援法」の対象地域に茨城県も指定されることを強く望み、報道公開に踏み切りました。

*****

このコメントには、記事が掲載された東京新聞のアドレスが付されるとともに、常陽新聞の記事もスキャニングして紹介されていますので、そのアドレスも紹介しておきます。
http://www016.upp.so-net.ne.jp/toride-s-net/20121226press-joyo..pdf

常陽新聞の記事には、発表された方たちの次のような思いと言葉も紹介されています。

「根岸さん(生活クラブ生協取手支部代表)らは、チェルノブイリ原発事故の健康影響調査で、放射性セシウムが心臓に蓄積するとした研究結果があることなどから「被ばくが関係しているのではないかという疑いがぬぐいきれない」と話し、
「病気の子が増えているのは事実なので、原因を調査してほしい。小学1年生と中学1年生だけの検査では取りこぼされる子どもが出てきてしまうので、全児童・生徒を対象に毎年調査を実施してほしい」などとしている。」

・・・非常に共感する内容です。
記事を読んで、つまり要検査が多かったという事実に触れて、僕も発表された方たちと同じことを感じました。放射性セシウムの心臓への蓄積による影響が濃厚ではないかということです。いや他の放射性核種の影響がそれに重なっている可能性も大きいのでないか。
同時に、この検査が、小中学校の子どもたち全体に行われたのではなく、一部の児童・生徒にしか行われていないことに、なんとも言えない焦りを感じます。とにもかくにも早く調査を行って欲しいと切に思います。

そしてこの点をポイントに、みなさんに福島市を振り返っていただきたいのです。明らかに線量の高い福島市ではどうなのだろう。いや福島市だけではありません。取手よりも線量の高いところは他にもたくさんあるのです。
そのすべて箇所で、心臓検診を行う必要があるのではないか。いや、確実にあると僕は思います。しかも小中学生だけでいいはずがない。高校生、大学生、いや大人たちの心臓検診もぜひすすめて欲しい。それが必要です。

ではそのためにどうしたらいいのでしょうか。一つには、こうした取手の3つのグループの方たちの行動と連携し、それぞれの地域で、それぞれの自治体に心臓検診を行うことを要請することが大事だと思います。
その際、取手の事例は有力な説得材料になると思われます。こうしたことに学んで、各地域の市民が同じ行動をとっていくことが大事ではないでしょうか。そのために僕も取手の方々にもっと多くを学びたいと思っています。

同時に、心臓に何らかの影響が出始めている可能性があることをしっかりと見すえ、健康増進や免疫力のアップを図っていくさまざまな知恵を獲得し、実践していくことが問われています。
そのために、僕はまず私たち市民が、心臓疾患について、今よりも詳しくなることが大切だと思います。僕自身、何の蓄積もないので、たった今、幾冊かの書籍を注文したにすぎないのですが、単に検診に任せるだけでなく、病を知ることで、私たち自身がさまざまな危険な兆候を未然に把握できるようにもなります。
とくにお子さんをお持ちの方は、こうした知恵を獲得することで、より鋭い観察力を身につけることができるはずです。そしてそれが心臓に何らかの疾患が生じた場合に、生命そのものを救っていく力にもなりうると思います。もちろんそうした深刻な事態の防止そのものにも役に立つでしょう。
実際に病を生じた場合は、専門医の診療が必要なのは言うまでもないことですが、その前に私たちにはできることがたくさんあります。だとしたらそれをやらない手はない。

肝心なのは、健康被害がどのように出てくるか、まだあまりにわからないことが多いとしても、私たちが大量な被曝をすでに受けていること、しかも今後も被曝が続くことだけは確かだということです。
それが健康に言いわけがないのです。だとしたら、私たちはけして危険性が実証されることを座して待っていてはなりません。積極的な対策を積み上げていくことこそが大事です。それが私たちの生命を長らえるのです。
繰り返しますが、このことは、被曝の結果がまだわからない今だからこそ、積極的にはじめるべきなのです。そして結果としての健康被害を少しでも減らしたい。少しでも多くの生命を長らえ、健康を守りたいと思います。だからこそ目前の危機の可能性をしっかりと認識しましょう。

以下、東京新聞の記事をご紹介します。

*****

73人が「要精密検査」 取手市内24校心臓検診
東京新聞 2012年12月26日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20121226/CK2012122602000145.html

取手市の市民団体は二十五日、市立小中学校二十四校の二〇一二年度の心臓検診で、一次検査で「要精密検査」と診断された児童・生徒の数が一一年度に比べて急増していることを公表した。
心臓検診は取手市教委が毎年五月中に小学一年生、中学一年生に実施している。公表したのは「生活クラブ生協取手支部」(根岸裕美子代表)、「放射NO!ネットワーク取手」(本木洋子代表)、「とりで生活者ネットワーク」(黒沢仁美代表)の三団体で、市教委などの資料を基に調べた。
 
それによると、一二年度に一次検診を受けた小中学生千六百五十五人のうち、七十三人が要精密検査と診断された。一一年度の二十八人から二・六倍になり、中学生だけで見ると、十七人から五十五人と三倍強に増えていた。
また、心臓に何らかの既往症が認められる児童・生徒も一〇年度の九人から一一年度二十一人、一二年度二十四人と推移。突然死の危険性が指摘される「QT延長症候群」とその疑いのある診断結果が、一〇年度の一人、一一年度の二人から八人へと急増していた。
 
市民団体は「心臓に異常が認められるケースが急増しているのは事実。各団体と相談して年明けにも関係各機関に対応策を求めていきたい」としている。
藤井信吾市長の話 データを確認したうえで対応策を考えたい。
(坂入基之)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明日に向けて(602)新年にあたって・・・市民の力で未来を切り開こう!

2013年01月01日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130101 23:30)

みなさま。新年、あけましておめでとうございます。
2013年初の「明日に向けて」をお送りします。

年頭にあたって、何を発信するのがふさわしいのかを考えながら、新聞各紙の本日付の社説を可能な限り読んでみました。すべてを読見込めたわけではありませんが、それでもやはり郡を抜いているのは沖縄の二紙「沖縄タイムス」と「琉球新報」だと思いました。目前にある米軍基地問題と向かい合いつつ、平和の問題を考察しているからです。他にも地方紙で鋭い視点を打ち出しているものがあります。
しかし大手新聞のすべてには12月の総選挙のときと同じ欠落がありました。一つには私たちの国が直面している最も恐ろしい危機、すなわち福島原発事故がいまなお収束などしておらず、地震をはじめ、何かのきっかけて再び深刻な事態が発生する可能性が残されていることが、まったく無視されてしまっていることです。
本当に嘆かわしいことです。僕はこれまで、災害心理学を援用しつつ、人には危機に際して「正常性バイアス」に陥る可能性があることを繰り返し指摘してきました。危機そのものを認めずに、心の平静さを保とうとしてしまうのです。それが2011年の福島原発事故以来、この国を覆い続けてきているわけですが、そのことに大手新聞各紙は今もメスを入れていない。
「正常性バイアス」に自ら嵌ってしまっています。これそのものが私たちの目の前にある危機です。今年も市民の側からの積極行動で、このバイアスを打ち破り、危機と向き合っていく必要がある。それぞれの地域での避難訓練など、原発災害対策を真剣になって積み重ねていかなくてはなりません。

もう一点は、私たちの国に、現に膨大な放射能が流れ出してしまい、大規模な被曝が今なお進行していることです。これは現に進んでいる危機です。今なお、放射線管理区域に相当する地域にたくさんの人々が住んでいます。子どもも赤ちゃんもいます。このあまりに異常な事態が放置されていることもまた各紙に無視されてしまっている。
今、私たちの国が進めなければならないのは、何よりも東北・関東での放射線防護策の徹底化です。放射線測定体制の拡充・進化、避難権利の大幅な拡大、とくに学童疎開への早急な着手、被曝調査と医療の充実などが含まれます。そして忘れてはならないのは、これらが津波被害からの復興と一体のものとなって進められなければならないことです。
震災遺物(がれき)の広域処理問題が大きな焦点になってきたことにも明らかなように、津波被害が押し寄せた多くの地域はまた、放射能の影響も受けてしまっている地域です。だから被災者支援のためにも、放射線防護対策が重要なのです。にもかかわらずこの点もほとんど触れられていない。
市民の側からできることは何か。市民自らが科学をすることで、内部被曝の危険性をより主体的につかみとり広めていくこと。またその中から放射能時代を生き抜く知恵を紡ぎ出し、被災地の方々ともシェアしていくことです。津波被害のストレスの上に重なる被曝は危険性がより高い。だから被災地を守る放射線防護活動と健康サポートが必要です。
またこれを充実させることは、全国での被曝回避策を発展させていくことに連なります。しかしこの点にもどの新聞社もほとんど触れていません。

私たちの国は、これまで繰り返してきた愚かな自滅の道を歩みつつあると言えます。危機は分かっていたのに、誰も正面からきちんと向い会おうとしなかったが故に、それを回避できなかった誤りです。そもそもその最たるものが、原発の危険性であり、もっとはやくそれに気づいていれば福島原発事故とてあわなくてすんだ事故だったのでした。
さらに遡れば、太平洋戦争についても同様のことが言えます。実はアメリカと開戦するときに、天皇を中心とした「御前会議」に参加していた大日本帝国の首脳たちは、誰ひとり、アメリカと戦争して勝てるとは思っていなかったことが今日、明らかになっています。誰もが戦争の回避を望んでいたのです。しかし1930年代より、中国侵略を10年間も続け、20万人が戦死していた。
そのため「中国から撤退せよ」という当時のアメリカの要求を飲み込むと、自分の政治的立場が危ういと彼らは考えた。それで陸軍は海軍が戦争回避を言い出すことを望み、海軍は陸軍が言い出すことを望むという具合に、責任のなすり合いを続けていたのでした。誰も自らの身命を投げ打って、「国体」を守ろうとなどしなかった。それで戦争に突入してしまったのです。
同様のことは戦争の最中にも続きました。そもそも緒戦をのぞいて日本軍は物量上回るアメリカ軍に圧倒されていき、敗戦に次ぐ敗戦を重ねました。そのためどこかで降参すればより大きな被害が避けられることは分かっていたのに、それをしないまま戦争を続け、都市空襲、沖縄地上戦、原爆投下を受けるにいたってしまいました。

すべて戦争だから仕方がなかったのではなく、事前に予想され、回避することのできた敗北であり、壊滅なのでした。それと構造的には同じことが、今、日本の社会の中で進行しつつあります。おそらくこの国の中枢の人々も、マスコミの首脳陣も、危機を認識してないということはないでしょう。しかし自分が「いいだしっぺ」になることを恐れている。
そして「あまりに大きすぎて手に負えない危機はないものと考える」という、この国の首脳陣が繰り返し陥ってきた誤りの中にはまりこんでしまっているのです。そのことが本当に不気味なほどに、各社の社説に欠けるものに反映しています。しかし当たり前のことですが、危機は見ないようにしたって眼前として存在しているのです。
2013年を迎えるにあたり、私たちが認識すべきことはこの点です。もはやいかなる意味でも、この国を既存の政治家たちや、オピニオンリーダを自認する(だから社説を書く)マスコミの首脳たちに任せておくことはできません。そうすれば確実に私たちは壊滅的被害にまでひっぱっていかれてしまいます。
民衆自身が力を持つこと、デモス(民衆)のクラチア(力)を強めること、ただそのことで、私たちの未来を築いていくことができます。そのために今年も一緒に尽力していくことをみなさんに呼びかけたいと思います。

同時にこうした動きはすでに各地域で始まっていることもシェアしていきたいとおもいます。地方新聞各紙にはそうした息吹が反映しています。そのすべてを紹介できないことが残念ですが、日本社会の現実をきちんと見据えて、変革の可能性を探ろうとする可能性は、より地域の人々に近い目線で取材している地方新聞に宿っているように思えます。
その代表格が沖縄の二紙であることはすでに紹介しました。他に上げるならば、仙台を中心に発刊されている河北新報も、読み応えのある年頭社説を書いています。神戸新聞も、太平洋側が中心になりがちな兵庫県の中で、篠山市の市民の活動をきちんと捉えた社説を書いてあり、読み応えがありました。さらに僕が深く共感したのは宮崎日日新聞です。タイトルは「いのちを守る女性目線の社会を」です。
僕がいいなと思ったのは、ここには自己変革のモメントが含まれているように感じたからです。なぜなら私たちの国は、女性の社会的地位が極めて低い国です。スイスのシンクタンク、世界経済フォーラムが昨年10月に発表した2012年版の「男女格差報告」で、日本は調査対象となった135カ国中なんと101位でした。反対に言えば、私たち日本の男性は国際水準からみて大変劣っているのです。
その男性主導の政治が、今の危機を作り出してきたのであって、こうした構造を変えていくことにも、未来を切り開く大きな可能性があることを、私たち男性は、わがこととして考えていくことが必要です。

この記事は、原発事故で宮崎に避難してきた女性に学ぶことの中からそのことを打ち出しており、なおかつ記事全体として、総選挙は民意を十分に反映しなかった。しかし直接行動は世論を動かしていく。「声は必ず届くということに自信を持つべきだ」と変革の意志の継続を呼びかけています。
僕はここに「宮崎日日新聞」首脳部の頭の柔らかさをみたように思いました。現に人々の間で起こっている変革を頭を開いて吸収しているリアルさを感じたからです。ここには私たちの国の変革が、地方からこそ、周辺からこそ、始まっていることが反映しています。
こうした地方新聞の奮闘とも連携しつつ、私たちは、私たちの草の根から世論を、育てていきましょう。月刊誌『世界』を筆頭に、社会問題を骨太に拾い上げて奮闘している出版物もまだまだたくさんあります。そしてその力の源は、全国津々浦々で行われいてる私たち市民の独自行動であり、独自学習です。
私たちの前には厳然として危機があります。しかしだからといって手をこまねいていることはない。可能な限りのことにチャレンジして、私たちの手で未来を切り開いていきましょう。今年一年、ともに尽力を重ねましょう。

以下、宮崎日日新聞の社説を紹介します。

***********

いのち守る女性目線の社会を
宮崎日日新聞 2013年01月01日
http://www.the-miyanichi.co.jp/contents/index.php?itemid=50756&catid=15

人間は自然の一部

期待と不安の交錯する2013年が明けた。景気・雇用、社会保障、消費税増税、環太平洋連携協定(TPP)、外交など諸課題が山積する新年だが、もっと大事なことを忘れてはいないか。11年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故を。あの記憶は決して風化させてはならない。
原発反対を訴える人たちは昨年、毎週金曜日に首相官邸前に集まり、多いときには20万人(主催者発表)もの人々が必死に声を上げた。それほど関心の高い問題だったはずなのに、昨年暮れの衆院選では不景気の陰に隠れてしまった感は否めない。それに加え政治に対する失望感が予想以上に強かったのだろうか。
その証拠に、衆院選では戦後最低の59.32%という投票率。独り勝ちしたといわれる自民党の小選挙区での得票数は2564万票で、なんと惨敗した09年の2730万票よりも少ないのだ。必ずしも自民党に期待が集まったわけではない証明になっている。この数字も「今の政治では何も変わらない」といったあきらめを映し出しているのかもしれない。
それでも忘れてはならない。大震災は行方不明者も含め2万人近い尊い命を奪い、私たちは途方もない大自然の脅威にさらされた。そして「安全神話」が確立されていた原発も襲い、被ばくを避けるため今も福島県内外の16万人が古里に戻れないままである。不景気に追い打ちをかけた3・11を経験し、この国の歩みも人々の思考も止まったかのようだ。

 ■母性ならではの危機意識■
なぜ避難したかと問はれ「子が大事」と答へてまた誰かを傷つけて 歌集「トリサンナイタ」で昨年、第17回若山牧水賞を受賞した歌人大口玲子さんの一首。東日本大震災後に仙台市から宮崎市へ移り住んだ。被ばくから逃れ、一人息子を育てるためだ。会社員の夫は仙台に残り、宮崎へは月に1度訪ねてくる。
夫とともにいるべきか、放射能の不安から子どもを守るため避難すべきか。残っている人たちへの自責の念にかられながら仙台を離れることを選んだ大口さんからは、強い母性が伝わってくる。
「胎児の世界」(三木成夫著)によると、子どもは母親の胎内で成長する間、「太古の海に誕生した生命の進化の悠久の流れ」を再現するという。生物が海から陸に上がるまでの1億年のプロセスを十月十日でたどるというのだ。
その生命を生み出し、月の満ち欠けとともにある女性のからだは自然の一部と言える。大口さんが仙台での暮らしに危うさを覚えたのは、そうした女性ならではの本能だったのかもしれない。

小学生のいる県内の若い母親は、政権に返り咲いた自民党の政策に危惧を感じるという。憲法を改正し、自衛隊を「国防軍」に変更する方針に「いずれは徴兵制が敷かれるかも」と不安を口にする。これもまた、子どもを守る母性から出た言葉に違いない。
ただ自民党と連立する公明党は、自衛隊の名称変更の必要性は認めず、交戦権を禁じた憲法9条の平和理念も尊重している。そのため自民党も当面は配慮する姿勢をみせているようだが、あくまでも平和へ向けて粘り強い外交にこそ力を注ぐべきだ。
衆院選で投票した有権者が最も期待したとされるのが景気・雇用対策。しかし、安倍晋三首相が明言する大型公共事業の積極推進には疑問符が付く。防災、減災はむろん必要だが、ばらまきとも取れる投資のために赤字国債が乱発されることはいただけない。経済波及効果が本当に表れるのか、見極める必要があるだろう。
増え続ける年金、医療、介護、子育てなど社会保障費を賄うという名目の消費税増税も迫る。暮らしがより厳しくなる国民に負担を強いる前に、政治家自身が身を切る覚悟があるのか。例えば政党交付金は国民1人当たり250円が血税から拠出され、毎年約320億円もが交付されている。
米国のオバマ大統領も再選後、打ち出している富裕層への増税など、日本も税の仕組みを根底から検討すべきだ。

 ■世論を動かした直接行動■

作家の村上春樹氏はエルサレム賞受賞あいさつで「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます」「その壁はシステムと呼ばれ、本来は我々を護(まも)るべきはずのものですが、ときには独り立ちして我々を殺し、我々に人を殺させるのです」と述べ、我々の魂がシステムに絡め取られ、貶め(おとし )られることのないよう警鐘を鳴らしている。
村上氏の言うシステムに翻弄(ほんろう)されてきた男性もまた、立ち止まって考えてみる時機ではないか。もう一度女性の目線で考えれば、暮らしはきっと変わる。
先の衆院選で反原発の声は届かなかったようにみえるが、首相官邸前での直接行動や世論は、ほとんどの政党が脱原発を政策に掲げざるを得なかったことでも反映されている。声は必ず届くということに自信を持つべきだ。女性ならではの声が生かされる社会を目指そうではないか。
ことしこそ、社会の至るところで苦戦を強いられている生活者が、少しでも希望の持てる年であるよう祈りたい。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする