明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(687)5日に伊丹市でお話します。9日に京都で『Kakusei』上映会があります!

2013年06月03日 16時00分00秒 | 講演予定一覧

守田です。(20130603 16:00)

直近の講演のお知らせです。6月5日午前中に、兵庫県伊丹市の、伊丹中央公民館でお話します。講演タイトルは「内部被ばくについて知ってほしいこと~子どもの未来を守るために~」です。
今回の講演では、福島や関東・東北の被曝の現状、および食べ物を通じた放射性物質の蔓延を抑えた上で、ではこうした状況の中で、私たちがどのように暮らしていけばいいのか、とくに食べ物の選択をどのように考えればいいのかをハイライトしてお話したいとお思います。
講演に向けて、ご参考までに、この後半部分のお話のレジュメをここに貼り付けておきます。

3 放射能との共存時代をいかに生き抜くのか!
○被爆医師、肥田舜太郎さんの提言から考える
(a)被曝を避けるには
 ⇒放射能の元を絶つ⇒脱原発を推し進める
 ⇒汚染された食べ物を避ける
  汚染されやすいもの→魚貝類、山の幸
  汚染が入り込みやすいもの→外食産業、加工食品
 ⇒放射線測定を進める
  市民放射能測定所の活用を!
(b)被曝したらどうするのか・・・命の大切さを自覚し、長生き運動を起こす
 ⇒腹を決め、開き直り、覚悟を決める。免疫力を上げ、病を押さえ込む
 ⇒体調不良を軽視せずに対処を。とくに心臓疾患への備えが大事
 ⇒お年寄りから長生きの秘訣を聞く、太古の生き方を尊重する
(c)被曝の影響に立ち向かう。被爆者差別と闘う!

○何をどう食べるべきか(健康を守る核心問題)
(a)OECD各国の体格指数(BMI)から考える
  ⇒「現代食」=食品は、食べ過ぎるように作れらているものが多数
 ⇒まともに作られているものを摂ることが大事
 ⇒よく噛むことが、一番早いダイエット方法! 
(b)放射能だけでなく、危険物質の総体を問題にし、安全なものを確保する
 ⇒政府と東電の責任をあいまいにせず、汚染ゼロの食品供給を要求する
  ⇒危険物の総体を避ける!農薬、抗生物質、化学物質、殺虫剤、白糖も危険!
(マクドナルドハンバーガーを食べると2個目が食べたくなる法則!!) 
(c)安全なものを作る生産者、それを扱う流通者を守る
 ⇒大量生産、大量消費を見直していく
 
○前向きに生きて、困難をみんなで越えていく!
(a)危険な食べ物を避けるだけでなく、食べ方が大事
 ⇒家族・友人・仲間と楽しく食事を!
(b)温かな触れ合い、豊かな人間関係が、免疫力も上げていく!
 ⇒前向きに生きること、共に未来への可能性を分かち合っていくことが大事
 (c)そのために被災地の苦しみを忘れずシェアし続ける
 ⇒原発再稼動反対の声を高めた東北・関東の人々に感謝と握手を!


もう一つ、昨日お知らせした6月15日の企画<聞け『ふくしま』の声〜今、そして未来(あした)のために>にむけたプレ企画として、6月9日、Film”Kakusei”の上映会が、伏見区深草の町家カフェ「ちいろば」で行われますので、お知らせします。
この映像は、ニューヨークで映像について学んでいるシンガポールの青年、Dion Tan君が日本に来て撮影し、製作したものです。
冒頭に、相馬から秋田に避難している女性が、相馬に残っている息子さんに宛てた手紙の朗読が収録されています。胸をうつ映像です。ここからFilmは、放射能汚染と避難をめぐる私たちの国のおかれた現状を実に鮮やかに描きだしています。
僕も一部分だけ登場しています。詳しくは以下の記事をご覧下さい。(全編の文字起こしもあります)なお9日は申し訳ないですが僕は参加できません。

明日に向けて(643)【再掲】愛しい君へ("Kakusei"・・・A Film by Dionより)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/47b1b066dbad3a9635ab89a8216fa2f1

以下、6月5日と9日の案内を貼り付けます。

*****

6月5日 伊丹市

2013年度 伊丹市公民館事業推進委員会企画 市民講座
 
未来へつなぐ地球環境
~しあわせのヒントを探しに~
 
昨年より、中国の大気汚染のニュースがクローズアップされ、今や私たちの大きな関心事になっています。私たちが住む地球環境は、地球温暖化やオゾン層の破壊等、深刻な環境問題に直面しています。
いまの「地球環境」の現状を、様々な視点から正しく認識し、未来へつなぐ「これからの暮らし」のあり方について一緒に考えてみませんか。
 
1 内部被ばくについて知ってほしいこと
~子どもの未来を守るために~
 
6月5日(水)10:00~12:00
講師:フリージャーナリスト守田敏也さん
 
・・・その他、様々な講師による3回の連続講演あり。(詳細は伊丹市公民館へ)
 
定 員:30人(先着順)参加料:1,400円(全回分) 600円(1回)
申込み:直接来館・お電話・FAX・HPで受付中。
 
http://www.city.itami.lg.jp/var/rev0/0019/2335/2013430144657.pdf
https://e-hyogo.elg-front.jp/uketsuke/dform.do?id=1366869688552
 
一時保育:一歳半以上就学前までの幼児対象。1人 1日350円。  
      講座開始10日前までにお申し込みください。
 
【主催・申込み・お問合せ・会場】            
伊丹市立中央公民館(伊丹市千僧1-1-1)月曜日休館   
TEL 072-784-8000 FAX 072-784-8001

*****

6月9日 京都市伏見区

<「聞け『ふくしま』の声」プレ企画>

日時:6月9日(日曜日) 14時〜
場所:みんなのカフェちいろば(京阪藤森駅下車2分)
企画:映画「KAKUSEI: The Fukushima End」上映
   福島からの避難された方のお話

入場:無料

詳細は以下から

ふしみ「原発ゼロ」パレードの会
http://nonukesfushimi.blog.fc2.com/blog-entry-148.html

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明日に向けて(686)聞け『ふくしま』の声〜今、そして未来(あした)のために 6月15日

2013年06月02日 22時30分00秒 | 講演予定一覧

守田です。(20130602 22:30)

表題のタイトルの企画が6月15日に京都市伏見区の龍谷大学深草キャンパスにて行われます。福島の今を知り、痛みを分かち合い、放射線防護の徹底化をめざし、原発のない世の中をめざすためのものです。
主催は、日本科学者会議京都支部、ふしみ「原発0」パレードの会、龍谷大学教職員組合の方々。僕も基調講演とパネルディスカッションの司会を務めさせていただきます。
福島を知るために、また福島から今の日本、私たち自身のことを知るために、可能な方はぜひご参加ください。

まず基調講演で、僕は「福島は今、原発は今、日本は今」というお話をさせていただきます。(チラシの順番と少し入れかえます)
言わんとするのは、一つには福島を中心とした私たちの国の被曝状況が非常に深刻であることです。このことを福島駅周辺で撮影した写真などをまじえてお話します。
二つには福島原発の今の状況があいからず非常に危険であることです。また原発サイトに溜まった膨大な汚染水が海洋投棄されようとしているなど、放射能汚染の拡大が続いていることなど、最近の状態についてもお話します。
三つには、こうした状況の中で安倍政権が原発再稼働と輸出に踏み込み始めたこと、同時にその中で、汚染地域へ人々を帰還させようとの動きを強めていることを批判的に捉え返します。

とくに強調したいのは、こうした安倍政権の動きは、広範な人々に被曝を強制し続けるものであり、構造的暴力そのものだということです。
僕はここには、旧日本軍性奴隷問題やその背景としてあった軍隊内の虐待など、正されることのなかった歴史的な暴力構造が流れ込んできていると思います。
これに対して、数日前に国連人権理事会が、日本政府に対する人権を守れとの勧告を行いました。政府は即刻これを受け入れるべきですが、同時に私たちはこの声が私たちにも向けられていることを自覚しなくてはいけない。
今こそ私たちは、この国の底流にある暗い暴力構造にストップをかけ、確立された人権と少しでもきれいな環境を、未来世代に渡していくべく奮闘すべきなのです。このことを基調として発信させていただきます。

続いて、パネリストの方たちがお話されます。実は僕は、今回のパネリストの方たちとそれぞれに思い出深い出会いを重ねてきました。それぞれに福島原発事故の中を生きる人々のある種の象徴的な立場におられます。
まだ当日の順番が決まっていませんが、みなさんに一人ずつ、ご紹介したいと思います。

今回は福島県の浜通り、南相馬市にゆかりの方がおふたり、参加してくださいます。南相馬市から滋賀県大津市に避難されている青田恵子さんと、南相馬市から滋賀県長浜市に避難され、今は南相馬にもどられている橘満さんです。
青田さんは詩を綴られる方。ネット上でずいぶん広がった『拝啓関西電力様』をはじめ、郷土を放射能の害によって追われた痛みを切々と綴られてきました。
僕が初めて青田さんとお会いしたのは、今年、滋賀県高島市マキノ町で行われた「びわこ123キャンプ」という子どもたちの保養キャンプでのこと。そこで相馬弁で詩の朗読をお聞きしました。深く胸を打たれました。

また橘さんは、南相馬市の甲冑師をしておられる方。2011年5月に僕が初めて東北を訪れた際に、宮城県角田市のピースファームでお会いしました。以来、さまざまな形で交流を続けてきましたが、昨年、南相馬に単身帰られました。
一番の理由は、伝統行事である「相馬野馬追」に甲冑師が欠かせないからです。同時に橘さんは、南相馬の今を見るためにも帰るのだとおっしゃられました。
そんなおふたりには相馬の人々の思いを語っていただきたいと思っています。なお、おふたりをはじめ、相馬の人々を思って綴った記事を以下にご紹介します。青田さんの詩も載せてありますのでぜひご覧下さい。

明日に向けて(652)ふくしま・相馬の思いを胸に
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/79ebbcadbd6e97dc583d53c895151472
http://toshikyoto.com/press/720

あとの二人は福島市ゆかりの方です。加藤裕子さんは、2011年春に大阪府高槻市を経て京都市に避難されてきました。加藤さんは5月に京都精華大学を借りて行われた「ゴーゴーわくわくキャンプ」に参加されたのですが、僕にとって初めてお会いした避難ママさんのお一人でした。
その後に、中村和雄さんの京都市長選の応援演説の場などでご一緒し、『福島の子どもたちからの手紙』という書物に、一緒に避難してきたお子さんが手紙を載せたことで関わっていることをお聞きして記事にしたことがあります。
この本に寄せられた子どもたちの言葉はどれも胸に染み入るもので、涙なくして読めないもの。加藤さんはそんな子どもたちの思いを一身に受け止めながら、原発と放射能の恐ろしさを懸命に訴え続けれこられました。ぜひ以下の記事の子どもたちの言葉に触れてください。

明日に向けて(408)『福島の子どもたちからの手紙(朝日新聞出版)』を読む
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/2d47e9e918af21db64b3f96cf60d0fb4

もう一人は福島大学の荒木田さんです。2011年秋に、「放射能除染・回復プロジェクト」の福島での試験除染のときにご一緒して以来、交流を続けてきました。
荒木田さんはいつも独特のトーンで、福島の今、日本の今を切り取ってくださいます。とくにその矛盾的なあり方、同時にそこに住んでいる己自身も含めた存在の矛盾を、鮮やかに描き出してくれます。
以下の記事に荒木田さんの文を載せたのですが、短いのでここでも紹介したいと思います。

明日に向けて(304)除染するほど、「住めない」と思う・・・放射能除染・回復プロジェクトに参加して(3)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3ebae533afd6d0f6a86b9fd668af6153

*****

除染するほど、「住めない」と思う
 荒木田岳(あらきだたける)
 
5月から福島大の同僚や京都精華大などの先生たち、市民の方々と一緒に 福島県内の除染に取り組んでいます。最初は、通学路や子どものいる家から作業を始めました。

政府は「除染をすれば住めるようになる」と宣伝していますが、それは実際に除染活動をしたことのない人の、机上の空論です。現場で作業している実感からすれば、除染にかかわるたびに、「こんなところに人が 住んでいていいのか」と思います。
原発から約60キロ離れた福島市内ですら、毎時150マイクロシーベルト なんて数字が出るところがあります。信じられますか?今日もその道を子どもたちが通学しているんです。
30マイクロくらいの場所はすぐ見つかります。先日除染した市内の民家 では、毎時2マイクロシーベルトを超えていました。つまり、家の中にいるだけで年20ミリシーベルト近くを外部被曝する。これに内部被曝も加味したらどうなるのか。しかもそんな家でも、政府は特定避難推奨地点に指定していません。
そしてどんなに頑張って除染しても、放射線量はなかなか下がりません。下がっても雨が降ったら元の木阿弥(もくあみ)です。一回除染して「はい、きれいになりました」という話じゃないんです。
 
今、私の妻子は県外に避難していますが、電話するたび子どもたちが「いつ福島に帰れるの」と聞きます。故郷ですからね。でも私には、今の福島市での子育てはとても考えられません。
そんな私が除染にかかわっているのは、「今しかできない作業」があり、それによって50年後、100年後に違いが出てくると思うからです。多くの人が去った後の福島や、原発なき後の地域政策を想像しつつ、淡々と作業をしています。歴史家としての自分がそうさせるのでしょう。
結局、福島の実情は、突き詰めると、元気の出ない、先の見えない話になってしまいます。でもそれが現実です。人々は絶望の中で、今この瞬間も被曝し続けながら暮らしています。こうして見殺しにされ、忘れられようとしているわが町・福島の姿を伝えたいのです。そうすれば、まだこの歴史を変えられるかもしれない。今ならまだ・・・・・。

*****
 
以上、4人の方にそれぞれの立ち位置から福島について語ってもらい、そののちに僕が司会をさせていただいてディスカッションを行います。これは筋書きなしです。
こうした時間をできるだけ多くのみなさんと共有して、福島のそして東北・関東で被曝されたすべての方々の痛みを共有し、分かち合い、この苦しみを越えていく決意を一緒に紡ぎ出していきたいと思います。
どうかみなさま、少々遠方からでもこの企画にぜひご参加ください。お待ちしています!

**********

<聞け『ふくしま』の声〜今、そして未来(あした)のために>
日時  :6月15日 土曜日 
     13時開場 13時30分〜16時(予定)
場所  :龍谷大学深草キャンパス 22号館101教室
     (京都市伏見区深草塚本町67)
講演内容:守田敏也さんの基調講演
     福島に携わる方、避難されてる方のお話
     パネリストによるディスカッション
 
お話&パネリスト
◆青田恵子(あおたけいこ)さん
原発事故により、南相馬市から、宮城県柴田町を経て、滋賀県大津市に避難。事故に対する痛み・哀しみを詩に託して発信中。
◆荒木田岳(あらきだたける)さん
2000年から福島大学行政政策学類准教授
地方制度史、地方行政専攻。原発事故後、学生たちの被曝軽減のために奔走。福島の複雑な今を、独自の視点から発信してきた。
◆加藤裕子(かとうゆうこ)さん
福島市から大阪府高槻市を経て、京都市伏見区に避難。「命を守りたい!原発いらない!」とTシャツプロジェクトを立上げ発信を続けてきた。現在、「子ども・被災者生活支援法を考える会/京都」共同代表。
◆橘満(たちばなみつる)さん
南相馬市在住
40年ほど甲冑の製作修理に従事。原発事故で滋賀県長浜市に一年半避難し、昨年10月に福島に戻る。
 
入場  :無料
主催  :「聞け『ふくしま』の声〜今、そして未来(あした)のために」実行委員会
連絡先 :ふしみ「原発0」パレードの会事務局(京都南法律事務所内 0756042133 ミゾエ)
 
詳細は以下より
http://nonukesfushimi.blog.fc2.com/blog-entry-141.html
http://nonukesfushimi.blog.fc2.com/blog-entry-144.html

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明日に向けて(685)国連人権理事会が日本政府に勧告!・・・(1)公衆の被ばくを年間1mSv以下に!

2013年06月01日 22時00分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130601 22:00)

日本時間の5月24日未明、国連人権理事会のアナンド・グローバー氏による、日本政府に放射線防護の厳格化を求める勧告が発せられました。
グローバ氏は、2012年11月15日から26日かけて日本を訪問、政府関係者をはじめ多岐にわたる人々に面談・聞き取りを行うとともに、福島県の各都市を訪問、この他、東京と仙台も訪れ、福島原発事故と、その後の政府の対応に関する入念な調査を行いました。

今回発せられたのは、その調査報告で、75の報告文と7つの勧告より成り立っていますが、全体として、非常によく問題の本質・・・日本政府の事故対応の問題点や限界をつかみとったものとなっています。
同時に、氏の報告は、確かな科学的見識とともにヒューマニズムに溢れており、通読していて何度も深く胸を打たれました。この文章が、ヒューマンライツナウのHPに掲載されています。ありがたいことに全文の仮訳もつけてくださっています。ぜひ以下からお読みください。

国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏・日本への調査 ( 2012年11月15日から26日) に関する調査報告書
http://hrn.or.jp/activity/srag.pdf

事故の全体を網羅したこの報告は、私たちにとって、この問題をトータルに振り返り、私たちが今後、何を目指していくことが必要になるのかの現時点での格好のまとめにもなりうると感じています。
その点から、数回に分けて、この報告内容を紹介しつつ、いかに捉えるのかを論じていきたいと思います。

初めとして今回は、グローバ氏が報告書の結論として導き出している「勧告」の内容を検討していきたいと思います。(ヒューマンライツナウによって訳された「勧告」全文(日本語のみ)を末尾に貼り付けておきます)

報告は先にも指摘したように、実に見事に書かれていて、どの部分も重要な内容を含むものとなっていますが、その中でも、最も重要なポイントを抜き出すとしたら、やはり78(a)の以下の内容だと思います。
「避難地域・公衆の被ばく限度に関する国としての計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権に基礎をおいて策定し、公衆の被ばくを年間1mSv以下に低減するようにすること」というものです。
またこうした内容に列なうものとして、77(b)でも「1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること」という勧告がなされています。

ここでのグローバ氏の指摘の的確さは、日本政府が依拠しているICRP(国際放射線防護委員会)の勧告=事故後の居住基準値が、「人権に基礎をおいて策定」したものではなく、「リスク対経済効果の立場」から策定したものであることをきちんと指摘している点に現れています。
というのはICRPは2007年勧告において、平常時は被曝線量を、年間1ミリシーベルト以下にしなければならないけれども、事故時には100ミリ~20ミリ、事故後の復旧時には20ミリ~1ミリと設定し、長期的には1ミリを目指すのでよいとしており、日本政府はこれに従って現在、20ミリシーベルト以下の地域は居住可能としています。
これは同じくICRP1990年勧告で「経済的・社会的要因を考慮して合理的に達成できる限り、放射能を防護する」と主張されたことに基づいた考えです。科学的安全基準によるのではなく「リスク対経済効果」の立場から、人間の安全値を決めているのです。
もちろん人間の放射能への忍耐力が、事故時に急に100~20倍になることなどないのであって、これは社会的・経済的理由により安全性を著しく切り縮めてよいとした、原子力を推進する側にまったく都合のよい考えでしかありません。

実は日本政府内部(民主党政権時)でも、こうした考え方に基づく論議を行っていたことが、5月25日の朝日新聞に発表されました。というのは現在も政府が採用している「年20ミリmSv以下」の帰還基準について、「年5mSv以下」に強化する案が検討されたものの、避難者が増えることを懸念して見送っていたというのです。
この点はまた詳しく論じたいと思いますが、要するに民主党政権は人体にとって安全かどうかではなく、避難者の数を問題にして、20mSv以下というラインが引いていたことが、会議の議事録から明らかになったというのです。
にもかかわらず安倍政権にいたっては、この20mSv以下にある「警戒区域」をすべて解除し、人々の帰還を促しています。「社会的・経済的」理由で設定された、科学的根拠に基づかない「安全基準」のもと、人々に高線量地域での居住を強制しようとしているのです。
クローバー氏の勧告は、こうした日本政府の非人道的な姿勢をまっこうから批判したものです。年間1mSv以下という被曝量とて、けして安全な値ではないですが、せめても「公衆の被ばくを1mSv以下」にせよという国連勧告を日本政府は受け入れるべきです。

同時に、同じ考えに基づき、クローバー氏は「1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること」を勧告しました。この点も非常に重要です。すでにさまざまな健康被害が出ているからでもありますが、しかし政府はこの点も無視し続けています。
クローバー氏はさらに「子どもの健康調査は甲状腺検査に限らず実施し、血液・尿検査を含むすべての健康影響に関する調査に拡大すること」とも指摘しています。これも日本政府が、チェルノブイリ事故調査に関する非常に限定的で精度の低い調査に基づき、子どもの甲状腺がんの発生のみを、事故の被害として認定していることを批判したものです。
実際にはもっとたくさんの疾病の発生が記録されています。最も新しい報告書では、2004年までになんと100万に近い人々の事故の影響による死亡が報告されていますが、日本政府は、チェルノブイリ事故での死亡者はたったの60名であるという世界の中でも最も少ない推計を首相官邸ホームページに掲げ続けてすらいます。

これらから考えるときに、クローバー氏の報告は、非常に貴重なもの、私たちに日本に住む人々にとってとてもありがたいものであると言えます。政府はこのこのヒューマニティーに溢れた勧告をぜひとも受け入れるべきです。
同時に私たちは、現在、私たちの人権が政府によってさんざんに踏みにじられていることを自覚し、怒りをもって立ち上がらなければならない。このことを強く訴えたいと思います。
僕はこれまで折にふれて、旧日本軍性奴隷問題、そしてその背景をなした兵士たちへの虐待など、かつての私たちの国の中にあった人権蹂躙が正されてきていないことが、福島原発事故以降の政府の対応に根底でつながっていると指摘してきました。

クローバー氏の勧告はこのことを鮮明化させたものでもあると思います。だからそれは日本政府に突きつけられたものでありながら、同時に、私たち日本に住まう民衆の人権意識にも向けられているものであることを私たちは自覚しなくてはいけないと思います。
私たちの人権は、私たちの力で守り、育まなければなりません。その意味で私たちは、最低でも被曝の限界値、がまん値を、1mSv以下にすべきだとしてきた事故以前の「社会的合意」を政府に守らせる必要があります。
私たちは今、危険な原子力行政を強行してきた政府や原子力村、電力資本によって、虐待を受けているのです。私たちのうち、本当にたくさんの人々が、年間1mSv以上の被曝を強いられています。構造的暴力が民衆に対して振るわれているのです。
これを払いのけなくてはなりません。人権を守らなくてはいけない。それを少しでも美しい環境とともに、未来世代につないでいかなくてはいけません。ともに奮闘しましょう!

なお、たった今、「アナンド・グローバー氏の国連勧告を歓迎し、日本政府に勧告受け入れを求める署名」が始まったという報告が、知人から入りました!!
「避難の権利」ブログに掲載された署名フォームと「共同アピール文」が以下から見れます。ぜひご協力ください!
http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-3d9f.html

外務省、関係各省及び国連特別報告者アナンド・グローバー氏に送付予定とのこと。1次締切:6/3 22:00、2次締切:6/10 22:00、3次締切:6/24 22:00だそうです!!

以下、勧告内容も貼り付けておきます。

*****

勧告

76.特別報告者は、日本政府に対し、原発事故の初期対応の策定と実施について以下の勧告を実施するよう求める。
(a)原発事故の初期対応計画を確立し不断に見直すこと。対応に関する指揮命令系統を明確化し、避難地域と避難場所を特定し、脆弱な立場にある人を助けるガイドラインを策定すること
(b)原発事故の影響を受ける危険性のある地域の住民と、事故対応やとるべき措置を含む災害対応について協議すること
(c)原子力災害後可及的速やかに、関連する情報を公開すること
(d)原発事故前、および事故後後可及的速やかに、ヨウ素剤を配布すること
(e)影響を受ける地域に関する情報を集め、広めるために、Speediのような技術を早期にかつ効果的に提供すること

77.原発事故の影響を受けた人々に対する健康調査について、特別報告者は日本政府に対し以下の勧告を実施するよう求める。
(a)全般的・包括的な検査方法を長期間実施するとともに、必要な場合は適切な処置・治療を行うことを通じて、放射能の健康影響を継続的にモニタリングすること
(b)1mSv以上の地域に居住する人々に対し、健康管理調査を実施すること
(c)すべての健康管理調査を多くの人が受け、調査の回答率を高めるようにすること
(d)「基本調査」には、個人の健康状態に関する情報と、被ばくの健康影響を悪化させる要素を含めて調査がされるようにすること
(e)子どもの健康調査は甲状腺検査に限らず実施し、血液・尿検査を含むすべての健康影響に関する調査に拡大すること
(f)甲状腺検査のフォローアップと二次検査を、親や子が希望するすべてのケースで実施すること
(g)個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを容易なものにすること
(h)ホールボディカウンターによる内部被ばく検査対象を限定することなく、住民、避難者、福島県外の住民等影響を受けるすべての人口に対して実施すること
(i)避難している住民、特に高齢者、子ども、女性に対して、心理的ケアを受けることのできる施設、避難先でのサービスや必要品の提供を確保すること
(j)原発労働者に対し、健康影響調査を実施し、必要な治療を行うこと

78.特別報告者は、日本政府に対し、放射線量に関連する政策・情報提供に関し、以下の勧告を実施するよう求める。
(a)避難地域・公衆の被ばく限度に関する国としての計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権に基礎をおいて策定し、公衆の被ばくを年間1mSv以下に低減するようにすること
(b)放射線の危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱な立場にある事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること
(c)放射線量のレベルについて、独立した有効性の高いデータを取り入れ、そのなかには住民による独自の測定結果も取り入れること

79.除染について特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう求める
(a)年間1mSv以下の放射線レベルに下げるよう、時間目標を明確に定めた計画を早急に策定すること
(b)汚染度等の貯蔵場所については、明確にマーキングをすること
(c)安全で適切な中間・最終処分施設の設置を住民参加の議論により決めること

80.特別報告者は規制の枠組みのなかでの透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう求める。
(a)原子力規制行政および原発の運営において、国際的に合意された基準やガイドラインに遵守するよう求めること
(b)原子力規制庁の委員と原子力産業の関連に関する情報を公開すること
(c)原子力規制庁が集めた、国内および国際的な安全基準・ガイドラインに基づく規制と原発運営側による遵守に関する、原子力規制庁が集めた情報について、独立したモニタリングが出来るように公開すること
(d)原発災害による損害について、東京電力等が責任をとることを確保し、かつその賠償・復興に関わる法的責任のつけを納税者が支払うことかないようにすること

81.補償や救済措置について、特別報告者は政府に対し以下の勧告を実施するよう求める
(a)「子ども被災者支援法」の基本計画を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること
(b)復興と人々の生活再建のためのコストを支援のパッケージに含めること
(c)原発事故と被ばくの影響により生じた可能性のある健康影響について、無料の健康診断と治療を提供すること
(d)さらなる遅延なく、東京電力に対する損害賠償請求が解決するようにすること

82.特別報告者は、原発の稼働、避難地域の指定、放射線量限界、健康調査、補償を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みら関するすべての側面の意思決定プロセスに、住民参加、特に脆弱な立場のグループが参加するよう、日本政府に求める。

http://hrn.or.jp/activity/srag.pdf

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