・誰に乞ふといふにあらねどかすかにて人想ふこと許させたまへ 「尾崎左永子八十八歌」所収。2015年時点の自信作。「相聞歌」である。 対象は特定されていない「捨象」されているのだが、それがかえって「一種の深み」をだしている。(曖昧というなかれ)この、やわらかで、おだやかな「相聞歌」は斎藤茂吉にも佐藤佐太郎にも、佐太郎門下の兄弟弟子にもない。 作者の独自性だ。かつて「星座かまくら歌会」で「相聞」を詠み . . . 本文を読む
・ためらひもなく花季(はなどき)となる黄薔薇何を怖れつつ吾は生き来(こ)し 「尾崎左永子八十八歌」所収。刊行年2015年の段階での自信作を収録したもの。来し(「きし」と読まず「こし」と読むには佐太郎門下に共通、「自己凝視」の深さは佐太郎ゆずり。だがこのように鋭い感覚の「自己凝視」は作者独自性だ。 「黄薔薇」(きばら・きそうび)のどちらでも「字足らず」それでも下の句は定型だからきちんと収まる(きばら . . . 本文を読む
かまくら歌会:2022年10月 於)鎌倉大路ビル 10月7日。 リアルの歌会だったが僕の個人的理由で欠席。そこで、参加者の感想をもとに思うところとを書く。主な批評。「老婆ではなく老い人」・「形容詞・形容助動詞の選択の問題」(そこまでは細かくなくてもいいと思う。)「上の句で景をしっかりと伝えている」・「下の句が分かり難い」(これは賛成。読者に印象鮮明に作歌すべき)「下の句に作者の目が効いている」「『 . . . 本文を読む
「星座α」は30号を記念して「誌上歌会」を掲載した。それへの僕の出詠歌。・戦場に迫れる小さき村にいて祈るのみぞとマリは伝え来 LINEを使うようになって、知人が増えた。その中に、戦場で医療に携わる人もいる。 毎夜毎夜、爆撃があるという。非戦闘員なので。「祈る」のが唯一の手段。 これは「相聞歌」であり「社会詠」である。 . . . 本文を読む
定型詩の意をふまえて 今号も会員の健詠ぶりに驚いた。気になった一点。短歌は「現代の定型詩」であるので、不自然で、必要性のない句またがりや、一首まとめて31音で済ますものはいかがなものかと思う。さて作品批評。・無人の家に紫陽花が咲く歌・漁港の片隅に捨てられた秋刀魚の歌・花を濡らす雨の歌・鳴きしきる蝉の歌・心を鎮める歌 抒情の深きものを5首選んだ。一首目。情景を詠んでいるのだが心理的な作品。目の付け . . . 本文を読む
・眩しかる舞台の上のダンサーは憂い漂わせ裾るがえす 知人のフラメンコの舞台を幾たびも見た。フラメンコは流浪の民の楽曲。そのせいだろうか憂いに満ちた表情をして舞台で踊るのを見た。場所と時刻は「捨象」した。 ・会いたしと汝(なれ)よりメールが届きたり紫陽花の咲く6月の夜に 「相聞歌」。知り人から「会いたい」とメールが届いた。男女の別、時刻は「捨象」した。・報道に心の曇る一日(いちじつ)は清楚なるはな . . . 本文を読む
・花鎮めの雨は濯がん無意のうちにみづからまとふ覇気のごときを 「尾崎左永子八十八歌」所収。2015年の段階での作者の自信作。 時刻、場所は「捨象」されている。佐太郎の言う「表現の限定」、作者の言う「言葉の削ぎ落し」 美しきダイナミズムがある。脳天を打ちぬかれたように感じる。以上 . . . 本文を読む
・花終ふるサルビアの朱傾きて日のかわきゐる公園に来つ「尾崎左永子八十八歌」所収。 この歌集は作者が選りすぐった八十八首を収録したもの。2015年に刊行されたが、その時点での自信作だろう。 作者はサルビアの花を好む。第一歌集が「さるびあ街」だったのは衆知の事実だ。この一首。 美しい印象を醸し出している作者の美的感覚だろう。例によって「捨象」がある。公園の具体名、具体的時刻が詠みこまれていない。佐藤佐 . . . 本文を読む
・闘ひはただ書き継ぎて生きんのみ暁となりてわが腕痛む「彩紅帖」所収。 作者の生き方は「闘い」の連続だったのだろう。このブログにも「闘いの歌」を収録した。2首とも、短歌界に復帰した前後のもの。前者は執筆活動で「わたしもその標的のひとりに加えて欲しい」といわれたのはすでに書いた。 そしてこの作品「闘い」といえど様々ある。 「執筆活動の闘い」「平和を願う闘い」(作者は東京大空襲の経験者・8・15を語る歌 . . . 本文を読む
・透きとほる花の幻影夜々(よひよひ)に眠りをつつむ立春前後・「土曜日の歌集」所収。 この感覚は何だろう。幻想的だ。「花の幻影」。冒頭の「透きとほる花」桜だろうか、夜桜だろうか。なにかこう象徴を突きぬけた感覚。下の句も擬人法で表現しているが違和感がない。 普段なら擬人法を厭う作者が見事に違和感のない表現にした。 どこの花か、何の花か、個別具体的なものは「捨象」されている。「表現の限定」「言葉の削ぎ . . . 本文を読む
・石垣に茅花光りて風ありき父ありき東京にわれは育ちき「土曜日の歌集」所収。 作者の代表作のひとつ。原作は「空堀に」だったそうだが「石垣に」に変えたそうだ。その方が緊張感があり音楽性も高い。「風ありき・・・・」も畳み込むようで勢いがある。 放送作家をしただけにあって、言葉に敏感なのだ。作者自身は「語感」というが「調べ」とのいう「アララギ」の伝統的な手法だが、こういう感覚は佐藤佐太郎にも斎藤茂吉にもな . . . 本文を読む
【戦時に編成される、より大きな集団単位】日中戦争が始まると、作戦ごとに二つ以上の師団、あるいは師団の一部を集め一時的な集団が編成された。これが「軍」で、戦争の拡大によってさらに「方面軍」、さらに「総軍」が編成された。 「軍」 戦時には複数の師団によって「軍」が編成され侵攻作戦をおこなった。上海戦を例にすると上海派遣軍が編成され最終的には第三師団、第九師団、第百一師団、藤重支隊によによって . . . 本文を読む
・おしなべて聖樹飾れる家の間に灯さぬ窓はユダの末裔「彩紅帖」所収。 「黒人街」と題された一連の作品の一つ。「ユダ」はイエスを裏切った弟子。黒人街で貧困家庭は「聖樹」とある「クリスマスツリー」も飾れず。窓の明りも灯せない。それを作者は「ユダの末裔」と表現した。 ボストンの黒人街が目に浮かぶ。「ユダ」を扱った作品はほかにもある。「最後の晩餐」の絵画のなかで指を立てている「ユダ」を詠ったものだ。そこには . . . 本文を読む