「大江戸酷酔夢譚」
かつて、東京メトロポリスで辺りを憚ることなく関西弁をひときわ大
きな声で発していた頃、新都庁舎の高層ビルが新宿副都心に完成し
てその豪華さから都民の非難の声が喧しく上がっていた。ちょうど
バブル崩壊後で都の財政も逼迫し、予算の見直しが避けられない状
況だったが、四期目の鈴木知事は東京再開発を断固として推し進
め、更に財政を悪化させた。何れの地方行政の借金もこの頃に膨ら
んだと思われる。人が住まない地域でも、建前は再び人が戻ってき
て活況を取り戻しても困らない為にと道路やコミュニティーホール
やふれあいセンターや公園や体育館といったものが、本音は景気を
支える為の公共工事が返済の見込みのない借金をしてまで造られた。
そんな財政再建が叫ばれる中、登場した青島幸雄東京都知事は予定
されていた世界都市博覧会を公約通り中止させ、その実行力に頼も
しさを感じたのは私だけではなかった。その後は行財政改革に取り
組むものと期待していたが、都職員の人員削減や給与削減は一向に
行われなかった。私は若さの至りで先の事など考えずに遊び呆けて
いたので、青島知事がどんな公約をしていたのか知らなかったし今
となっては知りたいとも思わないが、確か(確かでない)、公務員改
革も高い優先順位で挙げていた筈だった。しかし革(悪)まった財政
は何も改(正)まらなかった。ただ東京ではペットボトルの再利用を
呼びかけてコンビ二の店頭で回収することが決まった。彼はゴミ問
題に熱心だったが、もし分別されていないと収集員が部屋までその
ゴミ袋を持ってきて説教した、ところが私の暮らしていた区では燃
えないゴミも全て燃やされていることを報道で知らされて、私は怒
りに燃えた。
話しが逸れてしまったが、公務員改革が如何に困難なことである
か、行政に柵(しがらみ)のなかった青島幸雄でさえ、彼は学生の頃、
スタンダールの「赤と黒」の主人公ジュリアン・ソレルに憬れてい
たと何かの雑誌に載っていた、そんな彼でさえ無血無涙の権力を執
行することが出来なかった。しかし、民間は温情から躊躇っていた
ら従業員と共倒れしてしまう。我々は公務員を養ってやがて共倒れ
するのか、それとも無血無涙の公務員改革を断行するのか、決断を
しなければならない時が近づいているのではないだろうか。
私はあの時、なぜ青島都知事が財政再建を、つまり、公務員改革
を地方に先駆けて断行できなかったのか、赤字削減の「東京モデル」
を示すことが出来なかったのか、何故なら、その後の地方自治は、
東京に習ってドミノ倒しのように土建政治屋と中央官僚が仕組んだ
補助金に誘われて、身の程知らずの公共事業に血道を上げ莫大な債
務を抱え込むことになったからで、今でもその理由を知りたいと思
っている。それほど彼の政治決断に期待していた。
(完)
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