「技術と芸術」
(5)
ニーチェはショウペンハウア―から多大な影響を受けたが、その最
たるものは「ペシミズム」とそれから遁れるための「芸術」だった。
ショウペンハウア―は芸術の対象は「イデア」(真の世界)だとしたが、
プラト二ズムを否定するニーチェは「芸術は《真理》よりも多くの価
値がある」と言い、芸術の価値は認めたが、その対象は「イデア」で
あることは認めなかった。そしてショウペンハウア―が「世界とは『
意志』である」と言ったのに対して「世界とは『力への意志』である」
と言い、「力への意志」とは一言で言えば「陶酔」であり、「芸術は
力への意志のもっとも透明で熟知の形態である」と言った。さて、「
存在とは何であるか?」を問えば理性は《真理》に到達することなく
ペシミズム(ショウペンハウア―)かニヒリズム(ニーチェ)に陥らざるを
得ない。ニーチェは著書「悲劇の誕生」で賢者シレノスの言葉を引用
しているが、それは「人間にとってもっとも善いことは、生まれなか
ったこと、存在しないこと、何者でもないことだ。次に善いことは、
すぐに死ぬことだ」(ニーチェ著『悲劇に誕生』[第3節])、では、すぐ
に死ねない者はどうすればいいのかと言うと、「芸術はニヒリズムに対
する卓越した反対運動である」と言い、芸術こそがニヒリズムに陥らな
い卓越した方法だと言います。生成の世界は理性によって生れたのでは
ないので理性によって解き明かすことはできない。ただ芸術の創造性だ
けが世界の創造に近付くことができると言うのです。
(つづく)