「技術と芸術」
(7)のつづきの続き
ここでニーチェは驚くべきことを言っている。それは「感情の
状態性こそ根源的なものであり、思惟と意志もこれに属している
のである」と言うのだ。我々は当然思惟も意志も理性によって規
定されると思っているが、それらは根源的には感情の状態性に依
存していると言うのだ。たとえば、「正義」について考えてみる
と、そもそも個人だけだと善悪は認識できても社会は存在しない
のだから社会正義は成り立たない。正義とは社会的価値であり社
会正義のことである。正義が社会的価値であるとすれば、正義は
社会が変わる度に価値が変わる相対的価値であり、つまり絶対正
義は存在しない。「正義」とは社会的で相対的な価値であるなら
それを規定するのは社会を構成する個人に委ねられ、そして個人
の価値判断はそれぞれの善悪、否、もっとその根源を遡れば個人
の好き嫌いからもたらされ、その根源は感情にほかならない。
(つづく)