「あほリズム」
(662)
ハンナ・アレント「暗い時代の人々」より
「自由」という言葉によって、連想されるあらゆる特殊な自由の
のなかで、歴史的に最も古くまた基本的なものは運動の自由です。
望むところに向けて出発できるということは自由であることの原型
であり、それゆえに有史以来運動の自由を制限することは奴隷化の
ための前提条件となってきています。運動の自由はまた行動のため
の不可欠の条件であり、人々が世界のなかで自由を経験するのは何
よりも行動においてです。人々が公的な空間――共同の行動によっ
て構成され、歴史へと発展すべき出来事と物語とでおのずから満ち
あふれている――を奪われるとき、人々は思考の自由へと後退しま
す。
* * *
新型コロナウィルスのパンデミックによって公的な空間への行動
の自由を奪われ、経済至上主義の下に効率重視の緊密な社会を築き
、それに依存してきたわれわれ近代人は、行動の自由を奪われると
たちまち思考停止に陥り、思考の自由さえもままならない。