「真理とは幻想である」
(3)
ハイデガー=ニーチェは、「もしも世界が不断に変遷する無常な
ものであるとすれば」、つまり世界とは〈生成〉であるとすれば、
固定化された永遠不変の〈真理〉は変遷する生成の世界に「そぐわ
ない」と言います。しかし、われわれが世界を認識するための根拠
となるものは〈真理〉以外にあり得ません。たとえば、われわれが
生息する地球は自転しながら太陽の回りを公転しているという事実
は〈真理〉そのものであり、たとえ明日になっても、おっと、自転
しなくなれば明日は来ないので自己矛盾ですが、しかしその〈真理〉
はまず不変に違いありません。不変であると信じるからこそ気にせ
ずに暮しているのです。では、地球は永遠不変に自転しているのか
と言えば、いずれ減速して遂には太陽に引き寄せられると考えられ
ています。つまり、われわれにとっては〈真理らしきもの〉ではあ
っても、真理とは決して〈永遠不変〉ではないのです。ただ、この
〈曖昧さ〉の上にわれわれの科学的認識が存立しているのです。そ
れは「世界とは不断に変遷する無常なものである」からです。そし
て、〈永遠不変の真理〉から導き出された固定化した科学技術は生
成の流転を妨げる、これが今〈世界=内=存在〉としてのわれわれ
が直面している地球環境問題にほかなりません。
(つづく)