「あほリズム」
(802)
われわれは生涯を振り返って、何か一つでも意味のあることを成
し遂げたかと問えば、たとえば、ある者は赤貧の身から一代で巨額
の蓄財を為しただとか、ある者は先祖が築いた巨額の遺産を一代で
食い潰しただとか、また、ある者は世界中を旅したとか、またある
者は生涯自室に引き籠って命を終えただとか等々、それら、謂わば
自らの臨終と共にいずれ何一つ残らない痕跡でしかないとすれば、
われわれが為し得る唯一の意味のあることは、子孫を残すこと以外
に何もないのではないだろうか。
(803)
子孫を残すこと以外に何一つ痕跡を残すことなどできない個人が
集った社会において、その社会の歴史を振り返ってみれば、なるほ
ど様々な生存のための様々な手段が考え出されたが、しかし、それ
らの手段によって唯一成し遂げられた目的は、種族の増殖以外に何
一つない。つまり、われわれの世界はひたすら人類を増殖させるた
めに営まれてきた。そしてそれは何も人類だけに限られたことでは
ない。確かに、われわれが生存するための手段は格段に増えたが、
しかしその目的は未だ動物たちと何ら変わらない。