【 2019年12月17日 】 MOVIX京都
2ケ月ほど前、『万引き家族』の是枝監督とケン・ローチ監督との対談がテレビで放映され、この映画のことを知った。昨年見た『私はダニエル・ブレイク』が良かったから、今度はどんな映画を見せてくれるのかと、公開が待ち遠しかった。
映画を見れば、「日本の労働環境とまるで同じではないか」と驚かされる。
4人家族の父親であるリッキーは失業中で新たな仕事を探している。高校に通う長男と小学生の長女。母親のアビーは介護ヘルパーの仕事をして1日中車で走り回っていて変則勤務の上、帰りも遅くなることが多い。だから一家団欒の時を過ごすことはめったにない。
【 家族団らん 】
リッキーが新たに見つけた仕事は配送車のドライバー。車を持ち込むか会社の車をレンタルするか悩むが、レンタル料を考えると割に合わず、高い頭金を借金で賄ってもその方が得と考える。アビーの訪問家庭を回る車を売って足しにする。
【 配送業務 】
おかげでアビーはバスで訪問家庭を回らねばならず、ますます帰りが遅くなる。仕事途中に子供に電話を入れるアビー。いらだち父親につらく当たる長男のセブ。父を想い、中に入り衝突を和らげる娘のライザ。
【 父と娘 】
仕事に就くときの説明では、誰にも拘束されるわけではなく働くだけ収入が増え、バラ色に思えた労働環境はひどいものだった。会社の被雇用者ではなく請負契約で、車の保守管理も含めすべて自己管理・自己責任だった。しかも保険もなければ決められた休暇もない。必死に1日動き回っても目標の週に届かない。電子端末で逐一管理され自由があるようで全くない。独立事業者と言えば聞こえがいいが、休めば罰金も取られる。個々の労働者をバラバラにして対立させ、機械で管理しているのだ。
【 管理者 】
一方、アビーの方は時間に追われ納得のいく介護ができない。日本の介護保険でも機械的な分刻みの設定で単位が割り当てられ、時間内に納めなければならない。決められた作業以外はしてはならず、仮に突発的な事故が起きてもそれに対応する処置はできない。しても無報酬の上、次の訪問先に間に合わなくなる。同じような場面が映画の中であった。
本来なら経験の積み重ねがより良い介護に繋がり、本人にとっても遣り甲斐があり、介護される側にも人間的な生活ができる貴重な仕事なのだが、実態は日本でも、映画で見るイギリスでも安い単価に抑えられた非常勤の単純労働とみなされている。
【 ヘルパーをする母 】
それでも日本と違うと思われるのは女性と男性のそれぞれの立場だ。アビーの粘り強さには驚かされるが、ここはというところは主張する。一方、日本の映画だったらとっくに暴力に訴えるかと思われる場面でも手を出さない。やはり人権意識では向こうの方が先進国だと思った。
映画は、家族の不安を残したまま終わってしまう。こんな家族にい幸せなひと時が訪れるのだろうか。
【 家族一同 】
〇 〇 〇
ケン・ローチ監督の映画は、他に同系統のもので『マイネーム・イズ・ジョー』や『リフラフ』『エリックを探せ』を見たが、いずれも日本の現状と共通の意識を感じるものだった。それとは別の方向のものとして『麦の穂を揺らす風』や『ルートアイリッシュ』はいわゆる戦争ものだが、どちらもいい映画で深く印象に残っている。その監督が一旦は引退声明を出したのに復活したということは、今の現状に我慢ならないという事なのだろうか。
『家族を想うとき』-公式サイト