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『世界の99%を貧困にする経済』その1-ノーベル賞のスイングリッツが語る『貧困大国アメリカ』の実情

2014-11-16 10:33:45 | お薦めの本



                         【2012年7月 第1刷徳間書店刊 】
                                     ジョセフ・シティングリッツ著 】


 2014年9月16日記

 この間、読んでブログで紹介した『金持ちは税率70%でもいい VS みんな一律10%課税がいい』は、結果としての《格差》、《貧困》を前提として、それを解消するための【所得の社会的再配分】を目的とする【課税のあり方】にだけ焦点を当ていて、そこに至った《いきさつ》、《どんな力がそうさせたか》については、一切触れることなく討論が進んだので、もう一つ説得力に欠けるというか、分かりにくい面があった。
 この本と対で読めば、《10%一律課税》や《法人税減税》派の【でたらめぶり】や【詐欺的論法】がわかろうというものである。


 全章を読み終えてから、このブログを書こうかと思ったが、【内容が豊富で1回では紹介仕切れない】と思うのと、【記憶と印象が鮮明なうちに書き留めたほうがいい】と考えるのと、まとめて書くと文章が長くなり、読む方も読む意欲がそがれると思い、第二章を読み終えたところでレポートを書くことにする。


 まず最初に断っておかねばならないのは、この本は決して【難しい経済の専門書】ではなく、(学者ではない)一般の人向けに書かれた【啓蒙書】に属する本であるということだ。
 「ジョセフ・スティングリッツ」は、先に紹介した本の討論者のひとりである経済学者「ポール・クルーグマン」にも影響を与えた、現代アメリカを代表する経済学者・社会学者である。2001年には「ノーベル経済学賞」を受賞している。(佐藤首相もノーベル平和賞を受けているから、必ずしも、ノーベル賞が受賞者の人格を高めたり、世の中への貢献度を反映する訳ではないが、《影響力》の指標にはなる。
 この本を読んでわかったことであるが、スティングリッツは、庶民には手の届かない《難しい理論》をこねくり回す、《お高くとまった経済学者》ではないということだ。

 本書の執筆に駆り立てたスティングリッツの問題意識というものは、下の『目次』の構成をみればおおよそ想像することができる。 


 本書の構成は以下のようになっている。

   序 困難から抜け出せないシステム
   第1章 1%の上位が99%の下位から富を吸い上げる
   第2章 レントシーキング経済と不平等社会の作り方
   第3章 政治と私欲がゆがめた市場
   第4章 アメリカ経済は長期低迷する
   歳5章 危機にさらされる民主主義
   第6章 大衆の認識はどのように操作されるか
   第7章 お金を払える人々のための“正義”
   第8章 緊縮財政という名の神話
   第9章 上位1%による上位1%のためのマクロ経済と中央銀行
   第10章 ゆがみのない世界への指針


  
 まずは、『日本の読者へ』という見出しのついている巻頭から

 『不平等はグローバルな問題である。(中略)本書の問題のひとつは、このような不平等による代償を社会が
 支払わされているという点だ。すなわち、経済実績の低下や、民主主義の弱体化や、法の支配をはじめとする
 根源的価値観の既存である。』

 

 『貧困は、単にお金問題だけでなく、人間の社会活動のあらゆる価値を貶める』という著者の基本姿勢がある。


 『日本にとって、アメリカの経験は重大な警告となるだろう。』(p-20)

 と、スティングリッツは警告してくれるが、果たして日本の政治家は、この言葉を真摯に受けとめられるのだろうか。近い例では、小泉内閣は、『貧困大国アメリカ』で見るようなアメリカの失敗を学ぶどころか、自分らの支配を強めるために、「規制緩和」と「民間活力導入」・「小さな政府」を合い言葉に、「新自由主義経済」をまねして取り入れ、《よりアメリカに近い国づくり》をしてきた実績がある。
 更に、安部内閣はアメリカに対し、尻尾を振り、その傘下に入り、アメリカの主導する《グローバリズム》を押しすすめて、日本を《第二のアメリカ》にしようとしていることをみるならば、的を得た忠告である。
 
  

 『序章』には、著者の問題意識と、この本の概括的な内容が紹介されている。後の章はこれを具体的に例を挙げ、わかりやすくかいせつしたものだ。
 まずは、その『序章』から。


 『2011年は、のちのち「激動の年」といわれる歴史的瞬間のひとつとみなされるだろう』と述べたあと、著者はチェニジアで始まり近隣のエジプト、リビアに波及していった抗議活動を伝える。
 オバマは《チェンジ》を約束して当選したが、その後の政策は前政権とあまり代わり映えしないものになっていると言い、アメリカの抗議者達の対象はウォール街からアメリカ社会全体の不平等に広げられたと伝えている。
 そこでのスローガンは、「1%による1%による1%のための政治」ではなく「99%」に変わった、と。


 今の世界を取り巻く問題の《キーワード》は、『貧困』や『格差』などの言葉に代わって『1%と99%の対峙』である。《極端な貧困》や《途方もない格差》の原因を作っているのが、『1%』と『99%』の乖離であり、今そこに目が向けられているという状況がある。

 いま世界で起こっている新しい運動の合言葉は『99%対1%』である。


 『スペインでは若年層の失業率が40%を超え・・』、アメリカでは『大勢の人が家と職業を失う一方で、銀行家たちが巨額のボーナスを手にするという不公平な現実』がある。(p-15)

 『世界では3つテーマが共鳴している。第一は、市場が本来の機能を果たさず、あきらかに効率性と安定性を欠いている点。第二は、政治制度が市場の失敗を是正してこなかった点。第三は、政治・経済制度が基本的に不公正である点だ。本書は主として、アメリカと先進工業国における行き過ぎた不平等を論じつつ、三つのテーマがどれほど密接に結びついているかを説明していく。』(p-15)

 ということで、話が進んでいく。


 【市場の機能不全
 
 『市場はあきらかに、自由市場主義者たちが主張するような機能を果たしてこなかった。
 『最も基本的な経済原則は、需要と供給が等しくなることだ。しかし、わたしたちの世界では、膨大なニーズが満たされないまま放置されている。・・・(中略)・・・現在の労働者と生産設備は、まったく使われていないか、100%の力を出していない。・・・失業は、市場に充分な雇用創出能力がないことのあかしだが、それは市場の最悪の失敗であり、効率性の最大の的であり、不平等の主要な弁員である。』(p-17)


 【グローバル化のつけ

 『政治制度が金銭的利益で動くとみなされてしまえば、民主主義と市場経済に対する信頼も、・・・傷を負うことになるだろう。アメリカがもうチャンスの国でなくなり、誇るべき法の支配と司法制度が金銭的利益に蹂躙されてきた・・・。』
 『問題なのは、グローバル化そのものの善悪ではない。・・・特定の集団だけに利益を与えていることだ。』
 『市場の負の面としては、富を一局に集中させうることや、環境コストを社会全体に転化しうることや、労働者を搾取しうることが挙げられる。だから、大多数の国民にまちがいなく利益を行きわたらせたい場合は、市場を制御して調整しなければならず、・・・(それを)繰り返していく必要がある。』



 【不平等と不公平

 『・・金持ちの親は自分の子供を、良い幼稚園、良い小中学校、良い高校へ通わすことができる。そして、これらの学校に入ってしまえば、格段に高い確率でエリート大学へ進学できるのだ。』(p-19-20)
 『経済制度は非効率性と不安定性でなく根源的な不公平性を持っている。・・・危機を起こした金融セクターが破格のボーナスとともに退場する一方で、危機に苦しむ人々が職場から追放されていく事態を、きわめて不公平だとみなすのは正しい認識だ。』(p-20)
 『金融危機のさなかに起きた数々の出来事は、報酬を決定するのが社会的貢献度ではなく、何か別のものであることをあきらかにした。・・・エリートと銀行家に与えられる富の源泉は、他人の弱みにつけ込む能力と意欲のように見えた。』(p-21)



 【ヨーロッパより階級格差が大きいアメリカ

 『・・・階級社会を、”成り上がりの可能性が低い社会”と定義するなら、アメリカは古いヨーロッパより階級的であり、現在では階級間の格差もヨーロッパより大きい。』
 『アメリカでは長年にわたり、ボーナスつきの引退を黙認してくれ。われわれの取り分のほうが大きくなるが、君たちみんなに利益は行き渡るはずだ・・・・。・・上位1%に含まれる人々は、相変わらず富とともに退場していくが、下位99%にもたらされるのは不安と懸念だけになった。・・・』(p-23)


  上の文中の《アメリカ》を《日本》に置き換えてもそのまま今の日本の現状にそのまま当てはまる。


 【モラルの喪失

 『・・・金儲けという目的の前に手段は正当化される。アメリカのサブプライム危機を例にとれば、所得と教育の水準が最も低い人々を搾取してかまわないわけだ。』(p-24)
 『人々は資本主義に籠絡され、すっかり変わってしまったように見える。ウォール街で働くエリート中のエリートは、学校の成績が良かった点を除くと、他のアメリカ人と大差がない。人類を助ける発見をしたい、新しい産業を興したい、最貧困層を困窮から助け出したい、という夢を持っていても、仕事の前では一時的な棚上げを余儀なくされる。そして信じがたい額の給料を手にする彼らh、ほとんどの場合、棚上げした夢をそのまま忘れ去ってしまうのだ。』(p-24)
 『資本主義は約束したことではなく、約束しなかったこと--不平等、公害、失業、そして最も重要な価値観の劣化--を実現させている。現在の価値観のもとでは、どんな行為も許容され、責任をとるものは誰もいない。』


 原発事故の責任をだれも取らず、《国民の平和に生きる権利》よりも《企業の営業権》を優先しようとする日本の首脳たちに聞かせてやりたい言葉だ。


 【政治制度の機能不全

 『・・・政治制度は危機を防ぐことも、不平等の拡大を止めることも、底辺の人々を守ることも、企業の悪行を阻むこともできなかった。・・。』
 『政治と経済の機能不全は、たがいに相乗効果を与え合っている。・・・このような仕組みのもとでは、富裕層が一般市民を食い物にし、社会全体を犠牲にしてさらなる富の蓄積を進めていくだろう。』(p-26)
 『わたしは以上の考察から本書の仮説の1つを導き出した。・・・市場を形成してきたのは政治であり、最上層が残りすべてを搾取できる仕組みを構築したのも政治である、と。』(p-25)
 『・・・経済界のエリートたちがせっせと築き上げてきたのは、他者の犠牲のもとで自分の利益を得る仕組みだ。』



 常に、日本の自民党をはじめとする保守政権が、模範としてあがめたて追随してきたアメリカの真の姿がこの本の中にある。

 現在、安倍政権はアベノミクスを推し進め、《株高と円安》と《デフレ脱却》を成果のように持ち上げ自画自賛している。しかしその恩恵を受けるのは、極一部の特権階級であり、自動車産業等の一部の輸出企業だけである。その影で、農魚業や多くの産業、大多数の庶民が犠牲になっている。
 また、消費税10%増税への移行は、一旦先送りされたものの、あくまで強行しようとねらっている。さらに『労働者派遣法』の大改悪によって、企業の便宜をはかり、働く者の権利をないがしろにして、労働者をさらに窮地に追い込もうとねらっている。


     ○       ○       ○


 自分には、『読んだ本の重要と思われる個所に傍線を引く』という習性がある。後で、読み返した時のための便宜を図るのと、読んだという軌跡を残すために。その傍線は通常数十ページに一箇所かそれ以下であるが、今回のは1ページに数箇所引いてしまうほど頻度が高い。

 重要箇所を引用したいのだが、この本の場合、一句一句みな重要な内容である。キリがない。このブログの文章を書き始めたのが9月の中旬で、今日はすでに11月16日である。そしてまだ『序章』にしか手が着いていない。

 文も長くなった。

 ここいらで、いったん切っておいた方がよさそうなので、一旦筆ならぬ、キーボードを置く。


                                                   【つづく】









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