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【 2013年1月 第2版 】 池谷祐二・中村うさぎ 対談 新潮社刊
池谷祐二の前著『進化し過ぎた脳-中高生と語る「大脳生理学」最前線』【2004年「あさひ出版社」刊-後に講談社「ブルーバックス」】がわかりやすいうえにめちゃめちゃ面白かったので、本屋で手にして即買ってしまう。
前の本はタイトルにある通り、中高生向きに専門知識をわかりやすく書かれたもので、かといって通り一遍の知識を羅列するに留まらない最新情報をふんだんに盛り込み大人が読んでも興味が持てる内容だったが、今回のは趣を変えて、難しそうな脳科学の理論に大人が腰を引かないよう《悩ましい話題》も入れて、《親しみやすい》ように工夫している。
詳細は、本を読んでもらうことにして、ここでは興味深いトピックスに触れた部分の発言だけを羅列しておこう。
○ ○ ○
のっけから怪しい部分に入るが、
『第1章ひらめきの男、直感の女』から
《人類みな変質者》(P-34~)
池谷:セックスを軸にして生物を眺めると、人間の変態ぶりが浮かび上がります・・・隠れてセックスするのは人間だけですよ。
中村:「秘め事」というくらいですからね。かくすからこそ、気持ちよくなるっていうことかな。
池谷:動物は公開セックスですよね。しかも、多くは乱交です。
・・・ヒトは排卵期以外もセックスします。・・・さらに奇妙なのは閉経後もセックスする。
哺乳類の95%以上の「種(しゅ)」はつがいを作らないそうで、発情期があり乱交が主流という
その辺の事情は、ヒトの《自意識》の発達と嫉妬心が関係するということだ。
後のページにも出てくるが、動物には自分と他者を区別する《自意識》が
欠落しているからという。
この後、さらにきわどい話が続が、ちょっと、ページを飛ばして・・・。
第3章『脳はなぜ生まれたか』から
《脳と鬱病の関係》(P-88~)
池谷:生きることに余裕があって、将来を憂える時間があるほうが、ウツの発生率が高まるという仮説もあるんですよ
(昔は)すべて手作業。家事も手作業。・・・1日あたり平均1時間も自分の時間が持てなかった・・・それに比べて、今の人は3時間弱も自由時間があります。
中村:昔の人たちは忙しすぎて、自分の人生を考えるヒマなどなかった。
ストレスが多きと精神の病に冒されそうだが、そう単純ではないようだ。戦時下の厳し
い時代や戦闘中には逆にそんな病になったという話も聞いていないし。《便利になった
》ということと《都市化》の影響もあるという。
《脳が生まれたのはたった5億年前》(P-101~)
中村:事故で腕や足を失った人が、ないはずの腕や足に「幻肢痛」と呼ばれる痛みを感じることがありますよね。・・・
(途中の会話、略)
池谷:・・・脳は身体の形状を正確には把握していません。。。筋肉や皮膚の感覚や視野でモニターすることによって、自分の「輪郭」を想像しているのです。
この能力があるから、車両感覚を持ち車を運転できるし、ラケットを持った手が、
ラケット面を自分の手の延長と捉え、ボールをコントロールできるという。この能力
の習熟度合が、運転やスポーツの得手・不得手を決めるらしい。なるほど。
《人間の本当の寿命は41歳!?》(P-128~)
池谷:・・・どんな哺乳類でも、一生の心拍総数はほぼ一定で15億回くらいです。
(むかし、『象の時間・ネズミの時間』という本を読んで、そんなことが書いてあったか。これで行くと、ヒトが15億回目を刻むのは、なんと41歳ということだ。)
中村:えーっ、でも日本人はその倍もいきてるんじゃん。
池谷:・・・日本人の寿命が50歳を越えたのは、戦後のことです。・・・
中村:40歳を超えたら老人なのか・・・。
・・・私、最近「閉経(HK)B48」というユニットを女優の美保純さんと結成したの。
(中略)・・・どの生物も、閉経したときはたいてい寿命なんだそうね。生殖能力がなくなった時点で、生物は寿命を終える。
池谷:そもそも野生では「老化」した動物に出会うことは滅多にないんですよ。・・(略)・・ヒトは繁殖力を失って以降、何十年も生き延びます。
サケの産卵の姿を見れば、上で述べているイメージもわかりやすいというものだ。
多くの動物が子孫を残すことに全精力を使い果たしているのに対し、人間は寿命が
長くなったことでそれ以外の事に興味を持ち、時間を使えるようになったということか。
本の中で中村さんも言っているが「今の50代は、昔の50代より明らかに外見が
若返っている」ことは、自分らも充分確認している。
《脳と人のだましあい》(P-135~)
中村:そもそも人間って、あるゆることに対して欲望が強いよね。・・・がっついた生き方が、人間をどんどん発達させてきたんじゃないかと。
池谷:(自分と他人を比べた時に、どの感情が主に刺激されるかとの問題意識に関して)不安は重要な感情です。人は不安を感じた時、予備的行動をはじめます。不安と向上心は表裏一体ですね。
中村:・・たしかにイヌやネコは、どう見てもほかの仲間と自分を比較していないようですね。人間だけが、ほかの人間と自分を比較できている。。
池谷:ええ。イヌやネコには、そもそも自分が見えていません。鏡を見ても映っているのが自分とわからない。自己や自我という概念がないようです。
個人的には、この辺が一番興味のある所だ。一般の動物に無くて、人間にだけある
《自己意識》とは一体何なのか。逆の言い方をすれば、自意識の強い自分
からすれば、《自己意識》がないということは考えられない。それは、
いったいどういう世界なのか想像できない。
《英語脳と日本語脳》(P-141~)
中村:・・・「我」という自意識、「私」という概念も、よくできたイルージョンかもしれないよね。
池谷:・・無人島に自分一人しかいなかったとしたら、心は生まれるのでしょうか。
(中略)
たった一人しかいなかったら「私」は必要ないんですから。他人と自分を区別しなければならないときだけ、便宜的に「私」が必要になる。
このあと、日本人(日本語)と外国人(外国語)を対比して、日本語(人)には、
「我」の存在感が弱いという話になり、日本語は主語が曖昧であり、
主体性に欠けるという話が展開する。
更に、『ポトックス』の効用に関連して、《表情を読む》、
《まねる》ことの意義に及び、以下の会話につづく。
池谷:進化的に考えると、動物は「自分」に心があるより先に、まず「他人」に心があることを察知する能力を獲得したんだと思います。・・(中略)・・進化の過程で、動物は「他者の心」を読んできた。ところがヒトになると、「相手に心があるということは、ひょっとして、自分にも心があるのか?」ときづいてしまった。
中村:イヌやネコは相手の心を読めるけど、自分に心があることまでは認識していない。
池谷:はい。・・・イヌは「私」の存在に無自覚なのです。一方、ヒトは「自分は他者と異なる心がある」こと、つまり、「あなたと私は個別な存在である」ことを知ってしまった。
・・・ここまで来ると、人の心は、次のステップに進みますよね。
中村:というと?
池谷:自分の「心」を、相手の「心」に察知されないように工夫するんです。
ここは、もう『認知心理学』の領域である。その中でも
『心の理論』は最も興味深いテーマである。
このあと、『愛』、『恋』の話から、『言葉』の効用、
『遺伝子診断』と延々と続く。もっと紹介したいが、すでにこの文章もブログ
記事にしては長くなりすぎてしまった。
○ ○ ○
『中村うさぎ』という人、初めてお目にかかったが、その著書なども読んだこともなく単なる《エッチ》な発言をするタレントかと思っていたが、そうではなく博学なのにはびっくりした。
そういえば、先日のニュースで、BMI(ブレイン・マシン・コントロール)の話題が報告されていた。脳が考えることをロボットに伝え、手を動かす実験に初めて成功したという。
やはり、脳の研究は現在の科学の最先端である。
興味のある方、つづきは、本を買って、ぜひ読んでみてください。