【 2016年5月18日 】 京都シネマ
元アメリカ労働長官で経済学者、ロバート・ライシュのカルフォルニア大バークレー校での最終講義を軸として構成されたドキュメント映像である。
アメリカの経済学者といえば、ジョセフ・スティングリッツやポール・グルーグマンの名前が浮かび、それぞれの著作も読んだことはあるが、ロバート・ライシュがどんな人かということは、この映画を見て初めて知った。
彼は身長が147cmしかなく、いつもミニクーパーで駆けつけ《愛用》の踏み台を持って登場するというが、労働長官を務めていたことくらいは、何かで知っていたが、そんな姿を見たこともなかった。愛嬌があると同時に鋭い観察眼と明晰な頭脳をつ彼を慕う民衆がいると同時に、一方では彼を《社会主義者》《共産主義者》呼ばわりする人々がいる。(主には今の「グローバリズム」を維持・強化して、その特権を守ろうとしている人たちだが。それとは別に《サルが人間になった》という進化論を《悪魔の思想》のように忌み嫌う人が居る国でもあるのだが。)そのアメリカの政治の中枢にこういう人がいたということは驚きである。(ライシュは高校時代ビル・クリントンと同級生でそれが縁でホワイトハウスに招かれたという。)
改めてアメリカという国は、民主主義の伝統の懐の深さと思想の狭隘さを併せ持った、本当に不思議で面白い国であると思う。
○ ○ ○
話の内容自体は、それまでに堤未果さんの一連の著作(『貧困大国・アメリカ』シリーズ等)や、日本の経済学者たちがアメリカの現状を本で報告してくれたり、スティングリッツ(『世界の99%を不幸にする経済』)やグルークマンら(『金持ちは税率70%でもいい&みんな10%課税がいい』)の経済学者の啓蒙書にも触れていたから、だいたいの現状は把握していたつもりだから、特に目新しい内容はないのだが、講演の間に映像や資料、過去の出来事が巧みに組み込まれ、説得力があるのだ。
特に面白いと思ったのは、吊り橋の絵を使った解説だ。
1928年(世界大恐慌の起こった前年)と2007年(サブプライムローンが破綻しリーマンショックが起こった前年)を吊橋の支柱に見立て、その間の懸垂曲線が様々な指標のグラフを現しているという指摘だ。例えば、「貧困率」とか、各階層の「格差の度合い」とか「税率」高低が反比例している事実とか、等々。
吊り橋の一番垂れ下がっている1970年がアメリカにとって(中間層にとって)一番恵まれた時だったが、それから再び景気が悪化し、組合が潰され、中間層が貧しくなっていくのだが、儲けを確保する支配層の延命策として現在までに3つの段階を踏んでいるという。
1つ目には『労働力の外注化-ないしは生産拠点の海外進出を併せ持った-賃金カット』(グローバル化のもと国内は空洞化という現象はどこでも)
2つ目には『女性の社会進出-労働力の新たな獲得』(最近、どこかできたことのある政策!)
3つ目には『労働時間の際限なき延長』(ホワイトカラー・エグザンプションとか労働裁量性とこれも聞いている)
ちょっと残念なのは、パネル表示される資料やエピソードの内容の1つのショットが短く目まぐるしく変わるため、見るのが追い付かない。(特に、字幕と統計数字の両方を1度に見ようと思ったら、時間が短すぎる。もう一度、ゆっくり見てみたいと思う。)
日本の現状はどうか。上にも書いたように、日本の支配層は《アメリカの後追い》ばかりをしているが、中間層がやせ細ってしまったことは同じあり、景気回復のポイントは中間層が元気を出しその消費を増やすことが最大のポイントになることは共通している。
《トリクルダウン》はまやかしであり、「雇用を創出していく」のは大企業でなく、一般消費者=豊かな中間層の存在だ。
こんな時に、消費税10%増税なんて大間違いだ!
『みんなのための資本論』-公式サイト
『金持ちは税率70%でもいい VS みんな10%課税がいい』
『世界の99%を貧困にする経済』-マイブログへ
『「ルポ 貧困大国アメリカ」-日本の近未来を見るような悪夢』-マイブログへ
『(株)貧困大国アメリカ』-シリーズ完結編-『食の戦争』と併せて読むとアメリカの世界戦略が見えてくる