【 2019年3月26日 】 京都シネマ
話の内容をさしおいて、冒頭から空撮で映し出されるカラコルムの山々の神聖さに圧倒される-行ったことのない地球上に、まだこんな美しいところがあるんだ、と。この景色、映像を見るだけでもこの映画を見る価値があったと思った。
カラコルム周辺のカシミール地方は長年にわたってインドとパキスタン、それに中国も絡んだ国境問題がいまだに燻ぶっている。ここには「K2」や「ブロードピーク」を始めとする憧れの山々が控えているが、こんな大自然の中でどうして砲弾を打ち合わねばならないか、以前観た映画の1シーンを思いだす。
【 こちら上下の写真は「パミール高原」付近の写真で、映画の舞台となるパキスタンの地域とは関係ありません 】
物語は、こんな美しい大自然の中で牧畜を営む家族に、成長しても言葉を発することのない少女・シャヒーダーがいて、言葉を取り戻せるよう隣国インドのイスラム寺院に願掛けに行ったその帰り道で親と離れ離れになってしまうことから、たまたまシャヒーダーと出会ったインド人の「バジュランギおじさん」ことパワンとの珍道中が始まる。
というのも、パワンは「ハヌマーン神」を信奉する根っからのヒンドゥー教徒で、決してウソがつけない。もともと宗教が異なり民族同士のいがみ合いが激しい両国の間にあってありえないような場面も出てきて笑えてしまうのだが、《正直一筋》なところが、本来の人と人とのつながりを思い起こされるようで、ほっとしたものを感じさせてくれる。
インド映画特有の、例の《集団ダンス》もたびたび登場し、そこでいったん思考回路が止まってしまうのだが、不思議と後味のいい映画だった。そういえば以前観た『ライオン』もインドを舞台にした故郷探しの映画だったが、異国の映画を見るというのは、行ったことのないその土地の文化や風習に触れられる楽しみもあっていいものである。
映画の最後のシーンで下の画像の場面である。インドとパキスタンの国境という設定で、氷河の溶け出る水を集めた流れにそって国境を示すそれぞれの金網の塀があって検問所が対置する。そこをパワンと数千人の人々に見送られたシャヒーダーが母親のもとに帰っていく。
・・・実際に国境の金網が存在しているのかどうかは知らないが、こんな美しい場所にそぐわない光景だと思った。
【 最後のシーンの映像 - 国境検問所に集まる民衆 】
だいたい民族紛争の根源は旧宗主国の私利私欲や勝手なふるまいが原因となっていることが多い。英国が植民地政策を放棄し、宗教の違いによりパキスタンとインドが分割されそれぞれ独立したが、対立は根深い。下の地図は紛争地の「カシミール付近の図であるが、もともと1つであった地方民族国家(赤い太線がその領域)が2つに分割され、カラコルム山脈に近い東北方面の国境線は未確定のままである。一部、中国も絡んでいた地域を1963年にパキスタンがインドとの話し合い抜きに中国に割譲を認めたものだから話がややこしい。(ちなみに「K2」や「ブロードピーク」はこの地域の中の地図上の斜線部分(矢印の下あたり)にある。)
【 カシミール国境紛争地帯の地図 】
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』-公式サイト
映画『ライオン』のマイブログへジャンプ
『K2』についてのマイブログへジャンプ