今、日本の社会保険制度は破綻の危機にある。医療保険、年金保険は特に深刻だ。(介護・労災・雇用の各保険も問題が無いわけではないが。)
一番の問題は、『保険料を払えない』、『厚生年金に加入できない』という人が増えていることだ。根底には、『貧困の拡大』、『所得格差の拡大』がある。《多様な労働形態に対応する》とか《企業の労働需要に適応させる》とかの理由で『派遣労働の許容範囲』を大幅に拡大してのが、そもそもも間違いだ。賃金はどんなに頑張っても年収200万円台にとどまり、昇給なし、雇用も不安定、社会保険にも加入して貰えないでは将来が見えて来ない。
これが、若年層にとどまらず、40代50代の働き盛りの層にも広がっているから問題は深刻だ。
先日、安倍首相はTPPへの正式参加を表明したが、TPPへの参加は、この危機に《追い打ち》を掛ける問題をはらんでいる。
4月15日(月)付けの『毎日新聞・特集ワイド』記事でこの問題を扱っていた。大切な観点が示されていると思われるので、ポイントを整理して記事内容を紹介しておこう。
まず、【用語の整理】からしてみると
【保険診療】・・「健康保険」が使える診療。保険証を提示して患者負担分を支払えば
全国どこの病院・診療所でも診てくれるもの。
【自由診療】・・新薬や高度先進医療など、「健康保険」が使えない診療。
費用は100%自己負担。
【混合診療】・・「保険診療」と「自由診療」を同時に組み合わせて使う診療。
現在、原則として「混合診療」は禁止されている。
【関税】・・・・自国の産業を保護するため、政府が輸入品にたいして課す税金。
商品の価格に上乗せされる。
【知的財産権】・発明や発見等による知的活動から生じる権利、創作による著作権、
商標・商号・意匠など不当競争から保護する権利など、
人間の創造活動から発生する権利。TPP交渉分野の1つ。
ではなぜ、TPPが《日本の宝》である『国民皆保険制度』を破壊する恐れがあるのか。
【TPPでは医療は交渉の対象外である】という事に関して
TPPは関税の《全面撤廃》をうたっていて、24ある《交渉対象分野》で話し合いがされることになっているが、たしかに『医療』はその交渉対象には入っていない。
しかし対象分野である『知的財産権』(他に、『政府調達』や『原産地規制』など【国民の主権と安全】を脅かされかねない重大な分野も多数ある)をてこに、以下の順序で壊滅的な打撃を受ける。
【『知的財産権』と医療分野がどのような関係があるのか?】の疑問について
医薬品の開発には、多くの手間とそれにまつわる《利権》が絡んでいるのは映画『ナイロビの蜂』にも描かれていた。現在、「健康保険」で使える薬とその「薬価」は国が決めている。アメリカなどの大手資本は新たに開発した《高価な新薬》をもっと使って貰いたい。それに『ジェネリック薬品』などの使用を『知的財産権』をたてに使用をさしとめるよう要求している。そうなると、『きびしい財政事情のもと、医療費抑制につながりかねない。また病院等医療現場では収入が増えないのに高価な医療設備た高い薬のため、大切な人件費にしわ寄せがくる』と記事は書いている。株式会社の参入と規制緩和で、『皆保険制度』は破綻に追い込まれ、大資本だけがもうかる仕組みが作られてしまうのだ。
【『混合診療』がどうしていけないのか】という疑問について
『保険診療』と「健康保険」では扱えない診療や薬の併用は、原則禁止されていて、もしそうした場合、『保険診療』の部分も患者の全額負担で請求されてしまう。『混合診療』を認めて、『自由診療』部分だけの負担で高度な医療や新薬が使えればいいのでは、という意見もあるが、そうすると《金持ち》だけが《高度な先進医療》を受けて、貧富の格差が医療の格差にそのまま待ちこまれることになる。
さらにもっと大事な点は、『混合診療』を認めれば、《儲け》が目的の株式会社・大資本はお金を稼げる『自由診療』の部分にのみ力を入れて、『保険診療』は空洞化される。「保険会社」は高度医療を選択的に使える高額な《医療保険》を発売して売りつける。『保険診療』で出来る治療技術は時代遅れのものになっていく。
実際、保険会社は医療開発メーカーと結託して、「一度『自由診療』の範疇に入っ技術等は『保険診療』には入れないよう」要求している。だから、『日本医師会』は正当にも『混合診療』反対の立場を貫いている。
私も実際、観て驚いたが、マイケル・ムーアの映画『シッコ』では、『国民皆保険制度』のなく「保険会社」が席巻するアメリカでの《笑うに笑えない》厳しい現実が描かれている。
TPPで壊されるのは、農業だけではない。国民の大多数が、自民党員の8割が反対している「TPP参加」を、公約で「参加しません」と言って政権の座についた安倍首相は、《大ウソつき》であり、首相の資格はない。
もうこれ以上、騙され続けるのはやめにしよう!