【２０１３年４月２０日】 京都シネマ
ケン・ローチの作品は『麦の穂をゆらす風』、『マイネーム・イズ・ジョー』、『エリックを探せ』、そして近いところでは一昨年『ルート・アイリッシュ』を見た。いずれも《社会派》的作品だが、庶民の日常的な生活を描いた《ハート・ウォーミング》的なものと、厳しい政治状況を背景にした《武力と政治問題》を扱ったものとの２通りがある。
今回のは、前者の方の映画である。田園地帯というか醸造所が点在するスコットランドの丘陵地帯が舞台で、ウィスキーにまつわる話が物語のあちこちに出てくるので、その香りを想像しながら、興味津津の心地でスクリーンの映像を追う。
そもそもタイトルの『天使の分け前』（ＡＮＧＥＬ'Ｓ ＳＨＡＲＥ－《天使の取り分》と和訳している場合も見受けられる）であるが、樽で長期熟成している間、年に２％くらいは蒸発して《失われる》らしいが、それを《天使への恵み》と洒落たのだろう。
物語では、４人の仲間が《天使になり代わって》それをかすめ取るから、タイトルも話しの中身も洒落ている。
ストーリーであるが、街で問題を起こし《刑務所行き》の代わりに《社会奉仕活動》を命じられた「ロビー」は、仕事先で監督者の「ハリー」に出会う。ウイスキー愛好家のハリーはぶっきらぼうに見えるが、《不良少年》のようなロビーにあたたかく接する。
ハリーのそれまでの人生の中で、ハリーのような優しい人間は初めてだった。仲間もでき、恋人の間に子供もでき、これからの生活設計を考えていかなければならない時に手を差し伸べてくれた。
ウィスキーをこよなく愛するハリーは、ロビーと接するうちに、ロビーにウィスキーをかぎ分ける《きき酒》の才能のあることを見抜く。
それからが、４人の冒険の始まりである。とある醸造所で１樽１００万ポンド（１億４０００万円位）もするのではという『年代物』のウィスキーの樽が発見される。そてが、オークションにかけられると知り、４人はそこに潜り込み細工をするのだが・・・。
紆余曲折ある長い人生の中で、《ある人》との出会いは幸運をもたらしたり、生活に転機を与えるものだったりする。この映画の「ロビー」のように、幸運をもたらす人生の師ともいうべき「ハリー」という出会えたら、どんなに素晴らしいことだろうか。
しかし、一人の人間ができることは限らてくるし、皆がみなこのような幸運にであるとは限らない。今の日本の世の中は（イギリスでも事情はあまり変わらないのでは）、限られた椅子をめぐって大勢が殺到し、必ず《はじけ者》がでる《椅子取りゲーム》みたいな世の中の仕組みだ。
誰もが皆幸せになる権利があるし、それだけの椅子を社会が用意しなければいけないと思う。
話は変わるが、わたしの個人的な嗜好で言うと、アルコールの中では『ウイスキー』が一番のお気に入りだ。この映画をみると、ウィスキーはワインと比べても、思った以上に奥が深いと感じた。１つ１つの醸造所が、手作りで独自の味わいを醸し出していたのだ想像できる。
『赤ワイン』も最近は美味しいと思い、最近少し懲り初めているが、所詮安物しか手が出ない。（ワイン１本に千円札を何枚も出すのは惜しい気がする。）
やはり、経済性と品質の安定性（ワインは低額のお金で、常にこちらが望むような美味しいものに巡り会うという保障がない）と満足度ではウィスキーが第一だ。
今は、だいぶ質が落ちた（日本などの合理化された企業に、昔ながらの『スコッチ』が駆逐されたのかと思う。）が、沖縄返還以前の時代、２４００円で買った『ホワイト・ホース』をロックで飲む時の、あの独特のオークの薫りが忘れられない。
（ちなみに、そのころ『ジョニ黒』はそう美味しくもないのに、１万円以上したと記憶している。）
『天使の分け前』－公式サイト
