2004年12月初版 寺島実郎著 岩波書店
【2012年7月12日 記】
1週間ほど前、本屋を覗いたら、寺島実郎の本が目に付いた。思わず買ってしまう。今から10年近く前の文章にも関わらず、内容に引き込まれる。
前回読んだ寺島実郎の本は『世界を知る力』で、それまでもテレビでコメンテーターとして登場している姿を見かけたが、この本を読んで『どちらかというと保守的なリベラリスト』と思っていた考えが大きく変わったという印象を受けた。
○ ○ ○
今朝のニュースで、パンダの赤ちゃんが死んだというニュースが流れていたが、ご丁寧に何人もの人たちにインタビューをしてそれを逐一流している。
思わず、昨日読み終えた本書の『再考-イラク戦争の二〇〇三年』の中にある記述を思い起こしてしまった。
『2003年の物悲しい年末を迎えている。IT革命を背景に、あたかも自分の体験であるかのような臨場感で、イラク戦争の実況を見せつけられた年だった。・・(中略)・・・高校生から絞り出すような質問を受けた。「この夏の日本では、12歳の少年が4歳の少年を殺害するという事件が起こり、メディアを挙げて社会の荒廃を嘆いていた。一人の幼児の死にこれだけ興奮する日本の大人社会は、何故イラクで何万という人間が殺傷されることを支持したのか」という趣旨の質問であった。』
パンダの赤ちゃんの動向に一喜一憂し、アシカが東京湾に現れたといっては、それを追いかけまわす人々。少年犯罪の被害者を一応悲しんではみるものの、それ以上の悲惨な状況下におかれているイラクの罪もない子供らの状況を、決して報道しようとしないマスコミ。
上の高校生の質問に対し、日本の政治に関与する首相をはじめ、いずれの政府責任者もまともな回答をすることができないであろう。
○ ○ ○
本書は2002年から2004年にかけて、その時々の情勢に応じて雑誌等に寄稿されたものを集めたもので、次の四部から構成されている。
Ⅰ.「イラク戦争」を直視する
Ⅱ.現代世界への視界を開く
Ⅲ.日本社会の死角を見つめて
Ⅳ.文化と歴史の波間に
アメリカの国立公文書館のイラク開戦に関する機密文書が2002年に公開期限を迎え公開されると、それまで疑惑とされてきた開戦の口実がでたらめであったことが白日の下にさらされた。大量破壊兵器の存在もなかったし、アルカイダとの関係もなかった。サダム体制を打倒するためだけの、ただのでっち上げの口実だったのである。
本書は、そうした疑惑が明らかにされた以前の文章であるが、確かな《真実の見極め方》があるからこそ、その後の見通しの正しさが証明されたかたちになっている。
そして正しい見通しのもとでの、将来の日本のあり方についても的確に言及されている。
この間の経験から寺島実郎が日本政府およびマスコミを通じて慣らされた多くの日本人の根本的欠陥は、他の著作の中でも何度も出てくるが、
『米国というフィルターを通してしか世界を見ない』という世界のとらえ方だ。
マスコミの在り方についても容赦ない。
『冷戦後10年以上が経過しても、日米安保の在り方を根底から問いかける問題意識もない「国益論」で、この国をべいこくの世界戦略を丸呑みで支持する国に導くメディアの知的怠惰には驚くべきである。』(P-79)
その悪の根本原因である『日米安保条約』に関しては、
『40年以上も前の、60年安保体制のまま、基地の縮小も地位協定の改定も行われず、むしろ1997年のガイドラインの見直しを機にアメリカの世界戦略により一層組み込まれる形で在日米軍基地が位置づけられる方向に進んでしまった。』(中略)
『・・日本に関しては、ワシントン州の陸軍第一司令部の座間への移転、横田の第5空軍司令部とグァムの第13空軍司令部の統合など、司令部機能を日本に集中させ、日本を米軍の世界戦略拠点とする構想を提示している。』(中略)
『日本には約4.5万の兵力が駐留する米軍基地が1010平方キロ(東京23区の1.6倍)存在する。その駐留コストの7割は日本側が負担し、年間6500億円にもなる。しかも、駐留米軍の地位協定上のステータスは占領軍のそれに近い占有権を保持して』いる。
(ちなみにドイツは1993年に地位協定を改定してドイツ主権を回復している)
『日本は「日本への米軍司令部の集中拒否」「米軍基地の段階的縮小」「地位協定の改定」を主張すべきなのである。』(P-108)
他にも引用したい箇所いくつもあるが、直接読んでもらう方が誤解がない。(以下、省略する)
○ ○ ○
10年前の本でも、ちっとも内容に違和感を感じないということは、日本の現状が10年前と少しも変わっていないとことと、著者の世界を見る目が的確で先見の明がある証である。
今、日本では「オスプレイ」の配備に関して地方自治体からも反対の声が上がり揺れている。政府はどうかというと、『安保条約の地位協定』があるので「日本からは拒否するすることができない」とアメリカの言いなりである。
話は理論的には簡単である。悪の根源で屈辱的な『安保条約』をやめてしまえばいいのである。今のおおかたの日本人の意識状態では実行は難しいかもしれない。
『真に信頼できる日米関係のためにも、いかに時間をかけても米国に過剰依存・過剰期待する構造を脱し、在日米軍基地の縮小、地位協定改定による日本の主権回復』(P-83)を通じ、最終的には『安保条約』は廃棄すべきである。
【2012年7月12日 記】
1週間ほど前、本屋を覗いたら、寺島実郎の本が目に付いた。思わず買ってしまう。今から10年近く前の文章にも関わらず、内容に引き込まれる。
前回読んだ寺島実郎の本は『世界を知る力』で、それまでもテレビでコメンテーターとして登場している姿を見かけたが、この本を読んで『どちらかというと保守的なリベラリスト』と思っていた考えが大きく変わったという印象を受けた。
○ ○ ○
今朝のニュースで、パンダの赤ちゃんが死んだというニュースが流れていたが、ご丁寧に何人もの人たちにインタビューをしてそれを逐一流している。
思わず、昨日読み終えた本書の『再考-イラク戦争の二〇〇三年』の中にある記述を思い起こしてしまった。
『2003年の物悲しい年末を迎えている。IT革命を背景に、あたかも自分の体験であるかのような臨場感で、イラク戦争の実況を見せつけられた年だった。・・(中略)・・・高校生から絞り出すような質問を受けた。「この夏の日本では、12歳の少年が4歳の少年を殺害するという事件が起こり、メディアを挙げて社会の荒廃を嘆いていた。一人の幼児の死にこれだけ興奮する日本の大人社会は、何故イラクで何万という人間が殺傷されることを支持したのか」という趣旨の質問であった。』
パンダの赤ちゃんの動向に一喜一憂し、アシカが東京湾に現れたといっては、それを追いかけまわす人々。少年犯罪の被害者を一応悲しんではみるものの、それ以上の悲惨な状況下におかれているイラクの罪もない子供らの状況を、決して報道しようとしないマスコミ。
上の高校生の質問に対し、日本の政治に関与する首相をはじめ、いずれの政府責任者もまともな回答をすることができないであろう。
○ ○ ○
本書は2002年から2004年にかけて、その時々の情勢に応じて雑誌等に寄稿されたものを集めたもので、次の四部から構成されている。
Ⅰ.「イラク戦争」を直視する
Ⅱ.現代世界への視界を開く
Ⅲ.日本社会の死角を見つめて
Ⅳ.文化と歴史の波間に
アメリカの国立公文書館のイラク開戦に関する機密文書が2002年に公開期限を迎え公開されると、それまで疑惑とされてきた開戦の口実がでたらめであったことが白日の下にさらされた。大量破壊兵器の存在もなかったし、アルカイダとの関係もなかった。サダム体制を打倒するためだけの、ただのでっち上げの口実だったのである。
本書は、そうした疑惑が明らかにされた以前の文章であるが、確かな《真実の見極め方》があるからこそ、その後の見通しの正しさが証明されたかたちになっている。
そして正しい見通しのもとでの、将来の日本のあり方についても的確に言及されている。
この間の経験から寺島実郎が日本政府およびマスコミを通じて慣らされた多くの日本人の根本的欠陥は、他の著作の中でも何度も出てくるが、
『米国というフィルターを通してしか世界を見ない』という世界のとらえ方だ。
マスコミの在り方についても容赦ない。
『冷戦後10年以上が経過しても、日米安保の在り方を根底から問いかける問題意識もない「国益論」で、この国をべいこくの世界戦略を丸呑みで支持する国に導くメディアの知的怠惰には驚くべきである。』(P-79)
その悪の根本原因である『日米安保条約』に関しては、
『40年以上も前の、60年安保体制のまま、基地の縮小も地位協定の改定も行われず、むしろ1997年のガイドラインの見直しを機にアメリカの世界戦略により一層組み込まれる形で在日米軍基地が位置づけられる方向に進んでしまった。』(中略)
『・・日本に関しては、ワシントン州の陸軍第一司令部の座間への移転、横田の第5空軍司令部とグァムの第13空軍司令部の統合など、司令部機能を日本に集中させ、日本を米軍の世界戦略拠点とする構想を提示している。』(中略)
『日本には約4.5万の兵力が駐留する米軍基地が1010平方キロ(東京23区の1.6倍)存在する。その駐留コストの7割は日本側が負担し、年間6500億円にもなる。しかも、駐留米軍の地位協定上のステータスは占領軍のそれに近い占有権を保持して』いる。
(ちなみにドイツは1993年に地位協定を改定してドイツ主権を回復している)
『日本は「日本への米軍司令部の集中拒否」「米軍基地の段階的縮小」「地位協定の改定」を主張すべきなのである。』(P-108)
他にも引用したい箇所いくつもあるが、直接読んでもらう方が誤解がない。(以下、省略する)
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10年前の本でも、ちっとも内容に違和感を感じないということは、日本の現状が10年前と少しも変わっていないとことと、著者の世界を見る目が的確で先見の明がある証である。
今、日本では「オスプレイ」の配備に関して地方自治体からも反対の声が上がり揺れている。政府はどうかというと、『安保条約の地位協定』があるので「日本からは拒否するすることができない」とアメリカの言いなりである。
話は理論的には簡単である。悪の根源で屈辱的な『安保条約』をやめてしまえばいいのである。今のおおかたの日本人の意識状態では実行は難しいかもしれない。
『真に信頼できる日米関係のためにも、いかに時間をかけても米国に過剰依存・過剰期待する構造を脱し、在日米軍基地の縮小、地位協定改定による日本の主権回復』(P-83)を通じ、最終的には『安保条約』は廃棄すべきである。