【2013年5月6日】 MOVIX京都
アフリカとかオーストラリア、あるいは南太平洋のどこかの《文明未開の地》の物語と思っていたら、架空の場所ではあるが、ミシシッピ川のあるアメリカのルイジアナ州の海岸地帯という設定という事だ。
『ハッシュパピー』はいかにも黒人の女の子という外見だが、周りに白人らしき人の姿も見えるから、不思議に思っていたらそういうことだった。
それにしても、不思議な感じの映画だ。メルヘンのような世界でもあるが、この間の地球上に起きたいくつか《文明社会》の矛盾を映し出しているように思える。
「ミシシッピ川」のデルタ地帯で思い出すのは、2005年に『ハリケーン・カトリーナ』で壊滅的な被害を受けた「ニュー・オリンズ」の街である。ニューオリンズ市の8割が水没したといい、自然災害の大きさもさることながら、その後の政府の対応の遅れやまずさにより、黒人を中心とする貧困層が大きな痛手を被ったが、その具体的な様子は堤未果のルポルタージュ『貧困大国アメリカ』に描かれている。
もうひとつは、地球温暖化によって国自体が水没の危機に直面している「ツバル」や「モルディブ」などの太平洋、インド洋に浮かぶ島々のことだ。
ハリケーンで水浸しになった街と、温暖化によって氷山が溶けて海面上昇による水没の危機が重なる。
映画の舞台の『バスタブ島』も次の大雨が来れば、水没するかもしれない。
それでもそこで生活したい。そこに帰りたい。そこで生まれ、そこで生活してきたから他には移りたくない。原発事故で故郷を追われた人の気持ちと通じるものも感じる。
物質文明、科学万能の世界とは対極にあって、全く違った価値観を持ち、生命感を持つ。
【それも1つの生き方ではないか】-小さな少女の躍動感がそれを感じさせる、不思議な映画だった。
『ハッシュパピー・バスタブ島の少女』-公式サイト