小説を書けない小説家と、暢気な妻の短編集。
芥川賞受賞作。佐佐木茂索の選評に「書けない作家が書けないことを書いている作品」とあるが、その通りだと思う。
短編のいくつかは「芳兵衛もの」と言われ、若妻である芳枝に関わるもの。
これがまずまず面白い。
芳枝は貧乏なのに陽気で暢気で素っ頓狂で奇天烈。そして極端に臆病。
「臆病であるばかりか僕の眼からは相当に思慮たらぬ方で、人前に云わでもことを云ってのけ、気に入らぬことあれば誰の前でも文字通り頬をふくらし、嬉しいと腹の底をそのまま写したほどの笑顔をする」
とある。
喫茶店で教師に喧嘩を売る尾崎一雄(「ヒョトコ」のモデルはたぶん作者本人だろう)とは友達になりたくないが、芳枝となら友達になりたい。
地味だが、噛むほどに味が出る、そんな小説でした。