陸上自衛隊におけるレンジャー(Ranger)は、陸上自衛官の中でレンジャー課程を修了し、レンジャー徽章を有する者。
徽章の意匠は、「勝利」の象徴・月桂冠に囲まれた、「堅固な意思」の象徴・ダイヤモンド。
レンジャーという用語そのものは、上記のように陸上自衛隊の資格(特技)の一種であり、特殊部隊員ないし特殊部隊を意味しない。レンジャー有資格者のみで構成されている部隊として、「富士学校普通科部レンジャー班」と、西部方面普通科連隊の各中隊に編成されている「レンジャー小隊」の二つが存在する。
アメリカ陸軍では、優秀な歩兵による遊撃戦部隊として第75レンジャー連隊が編成されていたのに対して、陸上自衛隊では、レンジャー資格の保有率が高い普通科部隊において任務遂行に際し必要がある場合にレンジャー資格を保持する隊員を集め、臨時にレンジャー小隊を編成することはあったものの、長い間常設のレンジャー部隊や特殊部隊は組織されず、レンジャーは隊員個人の資格に留まっていた。
第1空挺団、対馬警備隊等は部隊に占めるレンジャー資格者の割合が極めて高く、「即応性を高めた精鋭部隊」という点では、米軍のレンジャー部隊と同様の機能を求められていたが、常設の部隊としては西部方面普通科連隊(西普連)におけるレンジャー小隊が創設されるまで存在していなかった。
陸上自衛隊における正式な課程教育としては、陸上自衛隊富士学校の「幹部レンジャー課程」及び空挺教育隊の「幹部/陸曹空挺レンジャー課程」がある。これらを修了すると、付加特技「r(レンジャー)」及び「レンジャーき章」が付与される。これらの教育課程を一定基準以上の成績で修了し、相当とする成績を収めた者は、「教官適任証」が与えられる。なお、幹部レンジャー課程卒業者及び教官「適任証保有者」は徽章が金色となる。
また、レンジャー修了者に対し、寒冷積雪地における戦技を教育する冬季戦技教育隊の「冬季遊撃課程」(修了者には「冬季遊撃徽章」が付与される。)、助教としての専門的教育をする、陸上自衛隊富士学校の「レンジャー助教課程」がある。
このほか、各師団・旅団等でも部隊の精強化策の一環として集合教育「部隊レンジャー」を実施しており、前述の教官適任証を持つ幹部または上曹が主任教官となって、幹部の一部[2]や陸曹・陸士を対象として教育している。これらは、正式な課程教育ではないが修了者には付加特技「r」が付与される。平成15年頃までは、主に防大出身の幹部も「部隊レンジャー」を受講していたが、現在幹部のレンジャー教育は富士学校の幹部レンジャーに一本化されている。
これらの「部隊レンジャー」の教育内容や卒業生の練度の不斉一さなどが指摘されているが、その地方の特性に合った遊撃活動のエキスパートを育てるという意味では適しているとも言える。第13普通科連隊の「山岳レンジャー」などはその好例である。
訓練の進行区分としては、「幹部レンジャー課程」及び「部隊レンジャー」が9コ想定、「空挺レンジャー課程」が6コ想定(空挺隊員であるため、体力向上運動や一部の基礎訓練が免除)で構成される。いずれの訓練も筆舌に尽くし難いほど過酷なことで知られている。
訓練期間中、学生は、教官からのあらゆる指示には絶対服従であり、一切反論せず「レンジャー!」とのみ応える。
陸上自衛官約14万人のうち、約8%の隊員がレンジャー資格を持つ。なお、レンジャー隊員になっても、手当が増額するなど、直接的な待遇面での優遇は無い。例外として、西普連レンジャー小隊に所属する隊員に関しては「特殊作戦隊員手当」が支給されている。
陸上自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群では、空挺基本降下課程、もしくは空挺基本降下課程と特殊作戦課程両方の履修が必須とされているが、レンジャー資格については特に書かれていない。
レンジャー課程は例年、5月下旬から約3ヶ月間行われ、前半の体力訓練と後半の実戦訓練に分かれる。訓練に参加するには、年齢・体力の基準を満たしていなければならない。
前半(体力訓練)
かがみ跳躍
ロープ渡り、ロープ登り
ハイポート(小銃を“控え銃”状態で行う長距離走)
20キロ走:炎天下で、戦闘服を着用し背嚢も背負い、小銃をハイポート状態で保持した完全装備で行なう。アスファルトの地面を半長靴(ブーツ)で蹴るので、相当な苦痛を味わうことになる。
ちなみに現用の89式5.56mm小銃の重さはおよそ4キログラム。
後半(実戦訓練)
爆破、小銃の射撃、襲撃(伏撃など)、斥候、徒手格闘、隠密処理(刃物等の無音武器のみを用い襲撃、暗殺)
通信術(FM無線機での戦術交話、手信号など)
野戦築城、潜伏
ヘリボーン、舟艇潜入、武装水泳、緊急脱出(水中において装具、靴等を放棄する訓練)
森林戦、夜戦、山岳戦、雪中戦、市街戦(CQB)
生存自活(「生きた蛇を調理して食べる訓練」として知られており、いわゆるサバイバル実習。食べることのできる動植物の知識や判別法、調理法などを学び、実際に蛇や鶏等を解体処理し食する。)
野外衛生
対尋問行動
パルチザン(敵の勢力圏内で、金銭や食料などを活用して協力者を獲得する)
すべての訓練が終了すると、帰還行事が行われ、隊員にレンジャー徽章が授与される。
空挺レンジャー資格の規定
一般部隊から第1空挺団へ転属した隊員のうち、「部隊レンジャー」を修了している隊員に関する規定
陸曹になってから「部隊レンジャー」を修了した隊員は、現在、「陸曹空挺レンジャー課程」は免除されている。但し、本人が受講を望む場合はこの限りではない。(過去においては必須であった。)
陸士で「部隊レンジャー」を修了し空挺団に異動した場合、資格は取り消される。陸士の「部隊レンジャー」を修了し、陸曹昇任後、空挺団に異動した場合、「陸曹空挺レンジャー課程」の受講が必要である
空挺団に所属する幹部及び陸曹は、基本的に「空挺レンジャー課程」修了を求められる。経歴管理上、教育に参加できなかった隊員も存在するが、資格があるにもかかわらず未了者は他部隊への異動対象となる。
冬季遊撃レンジャー
冬季戦技教育隊で10週間の「冬季遊撃課程教育」を修了することで冬季遊撃レンジャー資格を授与される。2008年度より集合訓練から課程教育に昇格した。参加資格はレンジャー資格、及びスキー検定1級または部隊スキー指導官資格を保有する幹部・陸曹であること。
資格者は、冬季遊撃徽章を制服及び迷彩服に着用できる。この資格保有者は冬季におけるスキー機動、雪中戦のスペシャリストとして認められ、雪山の遭難者捜索の際は出動要請がかかり、優先的に派遣される。
訓練内容は積雪寒冷地の山岳地帯における戦闘行動、ゲリラ戦についての訓練である。スキー・装具を装着してのリペリング降下訓練や雪洞内での宿営訓練、無反動砲や小銃を携行し30kgを超える背嚢を背負ってのスキー行進訓練、ゾンデ棒による遭難者救出訓練等も行い雪中戦のスペシャリストになるべく訓練を行う。 しかしながら、一晩の降雪が60cmを超える豪雪地帯であり吹雪で体感温度が-40℃以下にもなるニセコ山中での状況下の機動訓練は、火気の使用を厳重に禁じられる中で凍ったレーションを食することを余儀なくされ、十分に休養もとれない中で実施されるなど壮絶を極め、体力・精神ともに限界まで追い込まれる。常に凍傷や遭難の危険にさらされるため、徹底した安全管理下での訓練とはいえ教官・助教も含めた教育参加隊員は命がけで行っている。心身の故障で訓練についていけなくなった隊員は、失格となり原隊に送り返される。
資格者、特に冬季戦技教育隊所属隊員は「ゲリラ・フォース(遊撃部隊)」を自任し、多分に不正規戦争を意識しているものとされる。
有事の際、冬季遊撃レンジャー徽章保有者は集合命令を受け、冬戦争の際のフィンランド軍スキー部隊のような特殊部隊を編成する。それを冬季戦技教育隊が担任するとされている。
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