タイガース・バージョン
日本で戦争体験者から身近な人に語られるのは、米軍に負けたり当時の日本の指導部に
逆らえなかった無力な被害者としての語り、勇敢に戦った英雄の語り、アジア各国で行った行為の
加害者としての語りがありますが、加害者としての語りは平和な時代の子供や孫には受け入れられ難く、
英雄としての語りは結果的に敗北したので影響が少ないので、必然的に被害者としての語りが
大きな影響を与えているとのことです。
ドイツの場合は日常生活からある程度の距離があり他の周辺諸国と共通のキリスト教の
倫理や道徳があり、更に復興のための地続きの周辺諸国との関係修復の必要性から、
自らの加害性を受け入れる方向に早く進んだとしています。
日本の場合はそのような日常から距離のある倫理や道徳の影響よりも、
父や祖父などとの関係を悪くしないためなどにより、
家庭で語られる無力な被害者としての語りの影響が大きいのだろうと著者は主張しています。
そのことが日本の戦争体験者の子孫である若者の自己評価の低さに繋がっているのではないか
というのは、説得力のある部分でした。
さらに戦勝国の場合には、ファシズム体制の相手国を倒したとのことで、英雄の語りが
受け入れられ来たことが、その後に大きな影響を与えていますが、
日本では戦争の悲惨さの語りの影響が大きいので、中学生で「正義の戦争」という考えを支持するのは
日本では13%程ですが、イギリスでは44%程という事にも繋がっているのだろうとのことです。
様々な戦争の語りが影響して、その後に如何に影響しているのかを膨大な資料を引用して
考察している深い内容の一冊になっていました。
元大阪府警の堀内、伊達コンビのシリーズ最新作です。
今回は強奪された金塊を手に入れるために、大阪から九州、名古屋まで舞台を広げて走り回ります。
二人はあくまで自分たちの欲で動きますが、関わった相手にある程度気を遣うところが、
ほかの多くの犯罪物の小説と違うところでしょう。
最近の様々な事柄を取り入れつつも、道徳や倫理などの抽象的な方向には向かわず、
自分たちが金塊を手に入れて儲けるために走り回る内容になっていました。
そのあたりが、何かと日頃さまざまな事に気を使い暮らさなければならない読者に
受けるのでしょう。
また、最近はなにかとコンプライアンスというものが話題になりますが、
それにとらわれないインフォーマルな関係が様々なところで描かれていて、
それによってストーリーが進んでいくところなどは、著者が作家生活などで体験したことを
入れているのだろうと思いました。
ひたすら地を這う内容の、あくまでエンタメ路線に徹している一冊です。
安定して気楽に読めるシリーズものの一作として楽しめました。
アウトローの父親と暮らす少女の話ですが、父親の生き方のため、
小さな頃から各地を転々としています。
父親の「荷物をまとめろ」の一言で、直ぐに他のところに移る暮らしです。
何かと転々として暮らしているので、引っ越した先の子どもたちとの衝突も多く、
そのため少女は鉄板入りの安全靴を履いたりして対抗していますが、
大人に近づくにつれてそうやっても居られなくなります。
父親は15歳の時にソーシャル・サービスから逃れて、自力で生きてきたので、
法律の外で稼ぐことをずっとしてきていて、そのことから父親も少女も
何かと厄介事に見舞われます。
母親は早くに亡くなったのですが、そのことも詳しいことは判りません。
物語が進むに連れ、父親の体にある銃弾の痕のことが描かれてゆきます。
物語の舞台は警官がグロックの拳銃を持っていることから現代と解りますが、
携帯やパソコンも出てきませんので、時代をはっきりさせない描き方になっています。
あえて時代を超えた普遍的な物語にするためそうしたのでしょう。
2段組350ページほどの本ですが、読み応え十分の一冊でした。