日本で戦争体験者から身近な人に語られるのは、米軍に負けたり当時の日本の指導部に
逆らえなかった無力な被害者としての語り、勇敢に戦った英雄の語り、アジア各国で行った行為の
加害者としての語りがありますが、加害者としての語りは平和な時代の子供や孫には受け入れられ難く、
英雄としての語りは結果的に敗北したので影響が少ないので、必然的に被害者としての語りが
大きな影響を与えているとのことです。
ドイツの場合は日常生活からある程度の距離があり他の周辺諸国と共通のキリスト教の
倫理や道徳があり、更に復興のための地続きの周辺諸国との関係修復の必要性から、
自らの加害性を受け入れる方向に早く進んだとしています。
日本の場合はそのような日常から距離のある倫理や道徳の影響よりも、
父や祖父などとの関係を悪くしないためなどにより、
家庭で語られる無力な被害者としての語りの影響が大きいのだろうと著者は主張しています。
そのことが日本の戦争体験者の子孫である若者の自己評価の低さに繋がっているのではないか
というのは、説得力のある部分でした。
さらに戦勝国の場合には、ファシズム体制の相手国を倒したとのことで、英雄の語りが
受け入れられ来たことが、その後に大きな影響を与えていますが、
日本では戦争の悲惨さの語りの影響が大きいので、中学生で「正義の戦争」という考えを支持するのは
日本では13%程ですが、イギリスでは44%程という事にも繋がっているのだろうとのことです。
様々な戦争の語りが影響して、その後に如何に影響しているのかを膨大な資料を引用して
考察している深い内容の一冊になっていました。