最後のステップで池に着いて上を見上げた途端、圧倒的なボリュームに押し潰された。
それこそ馬鹿みたいに「なんだ、こりゃー」「スゲェー」「・・・・・・」。
続く言葉が出てこない。
まるで怪盗ルパンがマントを広げたような、怪鳥が羽を広げ今にも襲い掛かって来るような、黒っぽい岩の巨大な広がりが、そのサメ歯のような稜線でホワイトブルーの空を切り裂き、その頂点の左斜め上空には白い円形の月が異空間の入り口然として輝いている。
その岩壁の下には黄色や赤の紅葉に縁どられた静かな池があった。
「穂高の瞳」の奥又白池だ。
池の正面から下を見れば人だらけで喧騒に包まれた上高地が小さく見える。
遠く富士や南アルプス、八ヶ岳なども見えるが皆蛇足でしかない。
長い岩稜歩きの苦労はあの最後のワンステップで驚愕と歓喜に変わり、あとは余韻に浸ってただ静かな感動に身をまかせるだけなのだ。
この一瞬のために我々は黙々と歩いて来たのだ。
できれば池の畔で静かな夜を過ごしてみたいなどと思ったりしたが、あの一瞬のあとはすべて蛇足。
30分ほど深い感動に包まれたあと、我々は幕営地の徳沢へ降りた。
2006年10月15日(日帰り)(Y氏同行)
6:45-10:40奥又白池11:15-13:50テント場
前日JRとバスで上高地に入り、徳沢にテント泊。Y氏は徳沢ロッヂに寝た。
紅葉はちょっと遅かったかもしれないがまあまあだ。
パノラマコースを右に分けて松高ルンゼ右の枝尾根に急な登りから取り付き、潅木と岩の道をひたすら歩く。
途中にデイパックがデポされており、持ち主らしきオジンとすれ違った。
ちょっとした岩場を斜め上方にトラバース気味に通過。ここが一番の難所。
あとは岩に慣れていれば何ということもない道だ。上部には新雪だろうか、薄く残っている。
最後は草付きをトラバースしてあの最後のワンステップだった。
詳しい道の情報は他のサイトの記録がいくらでもあるので、あの一瞬の感動を伝えるのに集中してみたが、まあ無理だろう。
岩に苦労しない人で、静かな空間に身を置きたい人は行って見るべし。
「大雪」「屋久島」と合わせて三大別天地と言っておこう。
次の同じくY氏との「徳本峠越え」で一応北アルプス最後の記録だ。