ブログ仙岩

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エッセイスト大石邦子の歌会始の儀

2016-03-01 09:35:27 | エッセイ
皇居正殿「松の間」で行われた新春恒例「歌会始の儀」をテレビで見た。懐かしかった。何もかにも、あの時と同じで、天皇皇后陛下の背後に建てられている紫の背障も、黒塗りの金蒔絵のいすも、凛と張り詰めた人々の様子も、なんだか胸が熱くなった。

福島から選ばれた菊地イネさんの姿もよく見えた。・・

まだ若い昭和58年に私が招かれた歌会始の儀には応募したわけでもなく、陪聴者で、天皇の傍らに侍って、共に聴く人で講談社扱いだった。

それからが大変だった。歌会始には礼装、長年病衣のパジャマ生活で礼装のたしなみなどなく、2日前に上京、今は亡き妹に新宿のデパートの群青色のシルクロングドレスであいた背中を妹に直してもらった。

今年と同じ、1/14で、私は姉と妹に付き添われて坂下門をくぐった。車を降りて、北溜りの広いロビーで付き添いは終わり、金ボタンの若い衛士に引き継がれ、控室の長和殿に入り、中庭を挟んだ正殿の中央の一番格式の高い松の間の前に立ったとき、入口の左右に大きな杉戸絵が目に入った。あっと、これは橋本明治氏の描く三春の「滝桜」ではないか。左の杉戸絵は山口蓬春画伯の「楓」である。これも福島県下で写生されたものと読んだことがある。

まだ歌会の席に着いたわけでもないのに、私は福島県ゆかりの2つの絵の前で感極まっていた。最年少の私は左右に並んだ陪聴者の末席に、テレビカメラは入れないのでどこから中継するのかと思っていると、衛士が東西の壁面上部に横長の黒いガラス状のところがあり、そこが地下駐車場につながる報道室と教えてくれた。あれから33年、私はいま老いを生きる。