①司法試験という点のみにより選抜がされていた従来の制度よりも,非常に優れた制度であると考えられる。
②日本の教育に新しい価値観をもたらす非常にチャレンジングな取組であり,優れた人たちもたくさん育っている一方,法科大学院の中には,一部に,体制が不十分なところもあるため,プロセスによる法曹養成の意味合いを確認しつつ,法科大学院の体制を理念に沿うよう再編成する必要がある。
①と②に代表されるように,「プロセス重視の法曹養成」という考え方が基本であることに変わりは無いようである。確かに,抽象論としては反論の余地は無いように思えるし,「機能すれば」理想的ですらある。問題は,「理念が実現されていない形ばかりのプロセス重視」になっていると言うことであろう。大多数の法科大学院の教育クオリティがまずもって問題なのである。
③法科大学院間の格差が広がり両極化している現実を踏まえ,特に問題のある一部の法科大学院に対しては厳しい措置を講ずることもあり得る。ただ,一部に問題のあることを基に一般化して議論をすると,制度そのものへの誤解を招くことになりかねないため,プロセスによる法曹養成の思想自体は堅持した上,改めるべきところを改める必要がある。
前半部分は,法科大学院への「強制退場制度」を導入すると言うことであろうか。正解である。基準に到達しない法科大学院はまず廃校にすべきであると思う。後半部分だが,これも同意である。議論の立て方が妙なことになると良くない。以前にも書いたが,実績を出している法科大学院は問題ないはずである。問題なのは,いわゆる「中・下位ロー」であり,「法科大学院」と言う言葉の中身が,「中・下位ロー」にすりかわっているのではないか,との懸念がある。
④予備試験の運用については,法科大学院修了者と予備試験合格者との間の競争の公平性を確保するために,両者の司法試験合格率を均衡させるとともに,予備試験合格者が法科大学院修了者と比べて不利に扱われることのないようにする旨の閣議決定がなされている。
こんなことできるのか?意図的に調整するとすれば,属性が違うと言うだけで合格基準を変えるという方法しかない。許されるのか?そんなことができるなら,その前に未修者と既修者の合格率を揃える方が先ではないか。
⑤経済的事情等がないのに,法科大学院での教育を受けることをスキップして,試験のみで法曹資格を得ようとする「超特急組」が予備試験受験者・合格者の多数を占めることにならないかとの意見があった。
個人的には,最初,予備試験はその制度趣旨からは何らかの資格制限があると思っていた(ロー生は駄目とか)。完全にフリーにすれば,若手エリート学生のバイパスルート化するのは目に見えているからである。4年前に,「東大,慶大等の現役学生が席巻する」と予想していたが,まぁ既にそんな感じになってきている。予備試験の制度趣旨を徹底するならば,財産制限,身分制限等の,中々「ゴツイ」制限条項をつけざるを得ないであろう。
⑥法曹志願者の減少を議論するに当たっては,単に新しい法曹養成制度が始まった当初の人数と比較するのではなく,法曹志願者数の多寡を論ずる基準について,検討する必要がある。
⑦新しい法曹養成制度の導入以前に,既に過酷な司法試験受験競争状態にあったことから,優秀な人材が法曹を志望しなくなるという強い懸念があった。新しい法曹養成制度が導入された当初は,その趣旨に沿うように,多くの多様な志願者が集まったのに,その後減ってきているということが問題なのであり,新制度になったがために志願者が減ったということではない。
個人的にこの指摘は秀逸だと思う。確かにそうである。1期の頃の熱気は凄かったし,従来なら司法試験を目指さないような,外資系金融機関のエリート,医師,元官僚などが(元外交官大使もいた!)などが司法試験界に雪崩れ込んできたのであるから,「新制度そのもののせいで」志願者の数が減った,というのは正しくないであろう。問題は,何故,減ってしまったのか,である。
⑧法科大学院志願者減少の要因は,新司法試験の合格率が低迷していることにあり,優秀な人材が法曹を目指すようにするためには,新司法試験の合格者を増加させ,合格率を引き上げるのが有効であるとの意見があった。この意見に対しては,どのような層の志願者が減少しているかが問題であり,果たして,既修コースの修了者の半数が卒業した年に新司法試験に合格できるという現状が優秀な人材にとって法曹となることが困難な状況といえるのか,優秀な人材が法曹を志願しなくなっているとすれば,それはむしろ,弁護士の就職難などを背景として,法曹の魅力や資格としての価値が薄れており,法科大学院進学による経済的・時間的負担が見合わないと考えられているからであるとの見方もできるのではないかとの意見....
この意見も鋭い。旧司法試験の場合,最盛期には6万人近い受験生がいたが,短答式試験で合格レベルである42点~46点(60点満点)ラインに届く者は,7000~8000人程度だった事実が何故か見逃されている。0点~40点前後と言う分布範囲内に,数万人がいた,ということである。このことは,ほとんどの受験生は「名ばかりの受験生」であるか,「到底合格が狙えるレベルに届かない者」ばかりだったということを意味する(なので,難易度を語る上で,合格率自体は意味が無い。現に地方公務員試験の方がとんでもない倍率である)。もしそのような「名ばかりの受験生」が撤退したと言うのであれば,特に問題視するようなことではない。問題は,どの層がどう変動しているか,であるが,この点もろくに議論されずに,単に志願者人数の多寡で騒ぐのは現実を見誤るだけである。また,現役既修者の半分が合格する制度の何が「困難な状況なのか」という指摘も鋭い(現役既修生と言う属性は,法科大学院の教育効果というよりは,受験指導校での勉強がモノを言っている層だとは思うが)。
結局,問題の出発点は,「7,80%が合格する」という,当初の「国家的虚偽広告」のせいにあるのでは無いでしょうか。当時,「え,司法試験に7,8割も受かるの!?」という雰囲気があったのは間違いない。「弁護士になれるなら,300万くらい安い」,という「金さえあれば,法曹になれる」という安易な考えを受験生が持っていたのも事実ではないか。結局,法科大学院には医学部レベルの入試難易度・教育力が無いにも係らず,「ローにさえ入学できれば法曹になれる」,という妄想を抱かせたのが問題でなのである。本来ならば,「7,80%の人間を「司法試験合格レベル」にまで引き上げる」という意味だったはずである。「合格レベル」を下げてでも合格者を増やすと言う話では最初からなかったはずだ。「法科大学院入学→司法試験合格レベルまで実力を引き上げる→卒業生の,7,8割を受からせる(受からせてもよいレベルだから)」なのはずが,肝心の部分が抜け落ち,「法科大学院に入学さえすれば」「合格が約束されている」という変な公式に変容してしまっただけの話である。
そして「低い入学難易度+教育力も無い」法科大学院が,少なからず出てきた最大の元凶は,文部科学省が後先のこと考えずに認可し捲くったせい,ということである。
読んでいて面白い意見が一杯のっています。お暇な時に読むには最適。