最近相談が多いのがコイツへの対応策です。民法の出題パターンは、①要件事実的な問題、②論点チックな問題、③判例射程問題、④当事者の合理的意思解釈を問う問題、というものですが、設問1はある意味新傾向と言えば新傾向です。
私は講義でいつも「クライアントは法律用語を使うわけではない。要は「何とかしてくれ!」というように一般用語でいってくる。これをクライアントのオーダーは何かを汲み取り、それを法律用語に翻訳する必要がある」と言っています。まさに今年の問題はこのパターンです。
「半年分は払わない」というのが本問での「オーダー」です。契約で合意しているのに何故払わないなどというのか。問題文を読むと「払いすぎたからチャラだ!」というわけです。「ちゃらにする」ときたら「相殺」です。要はこの人は、「半年分の賃料は相殺するから払わない」と言っていることになります。ここで皆さんがすべきことは「相殺の要件チェック」です。この作業をできたかどうかです。相殺の要件の中でも主軸は自働債権と受働債権でしょう(講義でもいつも自働債権が何なのか具体的に確認する癖をつけること、と言っていますね)。本件で受働債権が、月額25万円の賃料債権だということはすぐわかります。問題は自働債権です。どのような債権をもって自働債権と考えるか。ここで皆さんは自働債権を探すことになります。
問題文に、耐震性に問題があって月25万の賃料は割に合わない的なことがくどくど書かれています。「シッカリしている建物だと思ったから払ったのにそうじゃなかった」ときたら、「勘違い」=「錯誤」の主張が思いつきます。また、期待していた性能ではない、という点から瑕疵担保も思いつきます。
そこで、瑕疵担保責任からの損害賠償請求権を自働債権にするという手が考えられますね。また錯誤の場合は全部錯誤無効にしても意味がないので(賃貸借契約自体がおしゃかになってしまう)、一部錯誤無効的な主張になります。この場合何をもって一部というかという点にも気配りは必要です。一部無効により払いすぎたから返せ=不当利得返還請求権ときて、これを自働債権にできないか、と考えるわけです。
要は今回の問題は、一般用語を法律用語に翻訳し、要件をチェックしていく、という作業を要求する問題なのです。ややメンドイのが、ある効果(本件では相殺)を導く要件の一部(自働債権の存在)が別の法制度の効果(瑕疵担保に基づく損害賠償請求権など)が充てられるという「重箱構造」になっている点でしょうか。このパターンは、以前、債権者取消権からの(これで代位債権を引っ張り出す)債権者代位権行使、というパターンで出題されていました。民法はそういう意味で問題が入子構造になっている点で難易度が高くなっているのです。