行政法判例講義は、5回目で161判例まで行きました。あと100判例(笑)やはり、9回くらいになりそうです。
判例の勉強をするときに、単に「これは○○条に関する判例」、という「単品でのお取り扱い」で終わらせると、単なる知識の域を出ないというか、もったいないです(もちろん、それすらできていなければ、L1に問題ありですが)。下手に知識の「数」が増えてくると、混乱の原因にもなりますので、どのような事例・ケースにおける判断基準として使うのか使わないのかまで押さえておきましょう。
それから、判例相互の関係を見ていると、最高裁の判断の指針が見えてくることもあります。例えば、国籍法違憲判決とエホバの証人原級留置事件があります。両者は憲法判例としては、14条と21条の判例として分類されており、相互の関係を考えることはあまりありません。しかし何か共通項はないかな、という視点でみると色々見えてきたりします。
両者に似ているのは、「違憲・違法判断が出にくい事例」という事例の共通項です。国籍法違憲判決は、国籍法のあり方が問われたもので、制度依存型の人権の問題であり、国会の裁量を憲法自体が明文で認めている事例であり、外国人が請求主体の事例です。これほど「合憲判決」が出やすい要素が揃った事例も珍しいと言えます。エホバも「学校現場事例」における、校長の裁量権の行使の問題で、一般的には校長の教育に関する専門技術的裁量を広く認める事例です。これまた裁量の逸脱認定は認められにくい事例ですね。
ところが実際の判断は、逆を行きました。このように「違憲・違法」判断を「しにくい事例」で、「いかにしてそのような判断にもっていったのだろうか」、という視点で両判例を見ると勉強になります。
共通して伺えるのが、「不利益の重大性」という考慮要素です。元々、同じ制度依存型で合憲・違憲が割れていた、非嫡出子相続分合憲判決と国籍法違憲判決の「違い」を説明する際に指摘されていた考慮要素ですが、エホバ事例でも「留年・退学処分」のもつ不利益の大きさが重視されており、、しかも、「信仰の核心部分をとるか、不利益を取るか」という究極の二者択一を迫られたという文脈において問題になりました。このように、「処分によりもたらされる不利益の重大性」を強調することで、「流れを変える」、というのはよく見られる手法です。
このように、憲法判例は「違憲にしにくい事例なのに違憲にした」、「厳格な審査がしにくいのに厳格にした」、「厳格な審査になりそうなのに緩めてきた」という判例が、試験対策の観点からは有益なのです。その事例における「流れを変えた」ファクターがなんなのかに注目してください。場合によっては、反対意見や補足意見が有益な場合もあります。
本試験では、違憲審査基準の「上げ下げ」が主戦場の一つです。当然、審査基準を「上げにくい事例で上げる」、「下げにくい事例で下げる」、という事例が多くなります。もちろん、「流れを変える」要素は多数あります。それが、保護範囲論レベルだったり、制約の有無・程度レベルだったり、色々です。試験対策として重要なのは、「判断基準を変える考慮要素を整理すること」にあるのです。もちろん、議論の出発となる、「こういう事例ではこうなるのが原則」というのを忘れないようにしてください。その意味で、違憲審査基準も、「原則・例外パターン」を聞かれているだけなのです。