多くの受験生の方に成績表を見せていただき,今年の試験結果に付き,非常に顕著な特徴が見てとれたので,コメントをば。
まず,圧倒的に多かったのが「刑事系が激しく沈んでいる」パターン。その理由は本人も大体察しが付いていて,「刑法で沈んだ」と。そしてその沈み方の特徴は,「あ,クロロホルム事例だ!」と飛びつき,その結果「間接正犯を検討しない」,というもので全員同じでした。
今回の問題を見れば,クロロホルム事例に気がつかないといけないのは当たり前ですが,あの判例と違う部分が当然あり,一番目立つ分かりやすい部分が,「あ,他人使ってるよね」という部分です。しかも「道具の途中知情事例」のド典型事例であるにも拘らず「見落とす」のは何故か,といえば,正に「あの事例だ,助かった,何か書ける」という心理状態に陥ったからです。当人達も「今から考えると,なんで間接正犯に気が付かなかったのか自分でも分からない」というコメントでしたが,これが本試験場での怖さです。本番では白紙答案状態になるのは心底怖いので,「あ,これでいけそうだぞ!」という心理状態になった場合,大きな安心感を得ると同時に,無意識レベルで異様に視野が狭まります。つまり「これで助かった,いける!」という心理状態下では,「実はそうでもない」という事態には直面したくないし見たくもない。その結果「他の可能性」を検討する意識がまるで働かなくなるわけです。今年の問題ではそのような状態に陥りやすかったのでしょう。
また,激しく沈んだ理由は,本問で間接正犯の検討を落とすと,大量の論点配点のある部分で「0点」になるからです。その結果,検討した人と丸落としした人では大きな偏差が生じます。正に「刑事系ではフレーム(=答案の枠組み)を外すとどえらいことになる」の典型例ですね。そもそも80点未満の答案は相当「やっちまった」答案ですが,60点台はおろか40点台50点台が多かったです。しかも総合順位は2000番台,3000番前後の人達だったので,このレベルの人達の点数としては,刑事系の落ち込み方が尋常ではないといえます。「枠組みを外した時の怖さ」が顕著に出てしまいました。刑法総論には各論にはないこの手の怖さがあります。事案の分析力,答案構成力が真正面から問われるのです。私は,本試験直後に「今年は刑法が最難問,めまいがするレベル,鬱になりそうな問題」などと表現してきましたが,正にその通りでしたね。
これ以外で目立ったのが,「公法系と選択科目が揃って駄目」というパターンで,ともに初日の科目なんですね。総合順位との比較からすると選択科目の落ち込みが大きい人が多く(30点台とか),初日トップバッターでやられてしまうと,公法系にも大きな心理的な影響が出てしまうということなんでしょう。選択科目は必修科目とは別の意味での不安感のある科目ですが,やはり「出だしが肝心」なので,平均点(50点前後)を取れるようにしておくべきでしょう。これもいつも言っている通りですね。
意外だったのは民事系相談がほぼなかったことです。それだけ「刑事系爆弾」の炸裂の度合いが尋常ではなかったということなんでしょう。