刑法の問題では,そもそも行為の個数が問題になりそうな事例が出てきます(因みに,問題となる実行行為を作為と見るか不作為と見るかも問われた事があります)。生の事実としては,行為は2個と見た上で法的な分析をしていき,最後に罪数処理のところで上手く調整,などということもあります。第5回本試験などが典型ですね。本試験では,罪数処理については意外に!?侮れない難しいことを実は聞いてきていることもあるので,油断なきようなのですが,そのような困ったときに!?頼りになるのが「包括一罪」で処理,というパターンでしょう。というわけで軽くまとめてみました。
包括一罪としての処理は,複数の法益侵害事実が惹起されたが,①主たる法益侵害事実惹起に従たる法益侵害事実惹起を含めて評価しうるか,又は,同一の法益侵害事実惹起としてまとめて評価しうる場合であって,②法益侵害事実惹起行為が1個の行為であるか,又は,1個の行為に準じる場合に認められる。すなわち,包括一罪は,①法益侵害事実惹起の一体性(法益侵害の一体性)と②法益侵害事実惹起行為の一体性(行為の一体性)を要件として認められる。
包括一罪は,法益侵害の一体性により,複数の法益侵害を個別・独立に惹起した場合に比して違法性を全体として軽く評価することが可能となる。更に行為の一体性により,複数の意思決定・行為により法益侵害を惹起した場合に比して責任を全体として軽く評価することが可能となる。
【混合的包括一罪】
数個の犯罪が成立し,異なる罪名にまたがり数個の法益侵害がある場合に,具体的妥当性の観点から一個の処罰でまかなうことが認められるようになった。それが混合的包括一罪である。
例:詐欺又は窃盗と2項強盗,傷害罪と事後強盗罪,詐欺罪と偽造私文書行使罪など。
近時の判例では,通行中のAから手提げバッグをひったくろうとして路上に転倒させて傷害を負わせた後,Aに対し,ぺティナイフを示すなどして脅迫し,A及びその連れの女性Bからそれぞれ現金を強取したという事案に関し,Aに対する強盗致傷罪とBに対する強盗罪の混合的包括一罪が成立するとしている(東京高裁平成19年5月21日)