抵当権の付従性
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① 労働金庫法58条において、その事業の範囲を明定し、その99条において役員の事業範囲外行為について罰則を設けていること、同法がその会員の福利共済活動の発展およびその経済的地位の向上を図ることを目的としていることに鑑みれば、労働金庫におけるいわゆる員外貸付の効力については、これを無効と解するのが相当であって、この理は、農業協同組合が組合員以外の者に対し、組合の目的事業と全く関係のない貸付をした場合の当該貸付の効力についてと異るところはない。
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② 本件において、所論の貸付が前記労働金庫の会員でない者に対する目的外の貸付であつたことは原審の確定するところであるから、右貸付行為はこれを無効とすべきである。
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③ しかし、Xらは自ら虚無の従業員組合の結成手続をなし、その組合名義をもつて訴外労働金庫から本件貸付を受け、この金員を自己の事業の資金として利用していたというのであるから、仮に右貸付行為が無効であつたとしても、同人は右相当の金員を不当利得として訴外労働金庫に返済すべき義務を負っており、結局債務のあることに変りはない。
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④ そして、本件抵当権も、その設定の趣旨からして、経済的には、債権者たる労働金庫の有する右債権の担保たる意義を有するものとみられるから、Xとしては、右債務を弁済せずして、右貸付の無効を理由に本件抵当権ないしその実行手続の無効を主張することは、信義則上許されない。
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最判昭和44年7月4日 百選83事件
・本件では、①本件貸付行為の相手方の確定(Xは貸付を受けるために架空の組合を結成しその組合名義で借り入れをしたため)、②労働金庫の行った員外貸付の効力、③無効な貸付行為から生じた債権を担保する抵当権の効力、の3点が問題となった。
・本判決は、あくまでも抵当権は「無効」であることを前提に、無効主張を信義則により排斥することで、有効な場合と同様の処理を可能にした。
・近時、抵当権は不当利得返還債権を担保するものとして「有効」とすべきとの見解が有力である(内田)。
・本判決は、本件抵当権は「経済的には」この不当利得返還債権を担保する意義を有するとしているが、結局は信義則で事案を処理した。
→ 抵当権は、目的物から優先的に弁済を受ける権利であり、利害関係人への影響が強いことから、抵当権における被担保債権の同一性を拡張的に捉えることに躊躇したものと思われる。貸金先権と不当利得返還債権との間には、元本額。利息の利率・弁済期などの点から直ちに同一性があるとは言えないとして本判決を支持する見解もある。
・本判決で問題となったのは「根抵当権」である点に留意したい。「被担保債権が存在しないのに、抵当権を設定しても無効である」という意味での付従性は存しないのである。しかし、被担保債権の範囲が特定の継続的取引契約から生じる債権とされている場合に、この継続的取引契約が無効であれば、根抵当権設定契約も無効とされている。したがって、本件でも労働金庫とXとの間の当座貸越契約が無効である以上、本件根抵当権が無効である、ということになろう。