抵当権の物上代位(1)賃料債権 |
① 抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。 ↓ ② 372条によって先取特権に関する304条の規定が抵当権にも準用されているところ、抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権であるが、抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものではない。 ↓ ③ 抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから、前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく、また賃料が供託された場合には、賃料債権に準ずるものとして供託金還付請求権について抵当権を行使することができるものというべきだからである。 |
最判平成元年10月27日 百選86事件
・抵当権には追及効があるので(333条参照)、物上代位の範囲を先取特権と同様に解する必要がないのではないかが問題となるのである。
・賃料に対する物上代位を認めるかについては争いがある。肯定説には、①「賃料は交換価値のなし崩し的実現であること」、②「賃料債権への物上代位を認めても設定者の使用収益権それ自体を奪うことにならないこと」を理由とするものがあるが、本判決は①を理由として挙げていないことに留意(文理解釈と②を理由とする)。
・本判決は、抵当権実行との重畳的行使を認めたので、賃貸借契約の締結時期や競売申立ての前後に関係なく物上代位権の行使が可能となった。
・本判決後、①転貸賃料に対する物上代位を原則否定し例外的に認める余地もあるとした判例(最決平成12年4月14日)、②抵当権設定登記後に取得した反対債権と賃料債権との相殺をもって抵当権者に対抗し得ないとした判例(最判平成13年3月13日)、③賃料債権への物上代位による差押え後、賃貸借契約が終了し明渡しがなされた場合、敷金は当該債権へ充当されるとした判例(最判平成14年3月28日)などが続いた。
・学説には、「代替(代償)的物上代位」と「付加的(派生的)物上代位」というように分類する見解がある。
→ 「代替(代償)的物上代位」は、価値代償物(保険金請求権、売却代金債権など)に対する物上代位であり、「付加的(派生的)物上代位」は、抵当不動産の収益(賃料債権)に対する物上代位である。前者では被担保債権の不履行前に物上代位を認める必要があるが、後者の場合は、不履行以前では、設定者の経済活動の自由を確保する必要性から物上代位権の行使は原則認められないとするのである(松岡など)。
→ 担保不動産収益執行制度(民執180条)との関係を意識した見解である。改正371条により抵当権は、被担保債権の不履行後に生じた天然実及び法定果実に及ぶとされた。したがって同手続を踏まずに抵当権者が当然に取得できるわけではないから、設定者が被担保債権の履行遅滞後、担保不動産収益執行の開始前に受領した賃料は不当利得とはならず、賃借人が設定者に賃料を支払うことが抵当権侵害になるわけでもない。