16
立ち別れいなばの山の峰に生ふる
まつとし聞かば いま帰り来む (中納言行平 818~893)
「因幡・いなば」を「居なば」、「松」を「待つ」にかけている。
因幡にゆくために、お別れですが、「待つ」と言ってくだされば、
すぐに戻ってまいります。
17
ちはやぶる神代もきかず龍田(たつた)川
からくれなゐに水くくるとは (在原業平朝臣 825~880)
「ちはやぶる」は「神」にかかる枕詞。紅葉で川が赤く染まることなんて、
神々の時代ですら、聞いたことがない。
18
住之江の岸に寄る波よるさへや
夢の通ひ路人目よくらむ (藤原敏行朝臣 生没年不詳)
住之江の岸に寄せる波のように、人目のない夜、夢の中でさえ逢っては
下さらないのですね。
「よく」は避けるという意味がある。