エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

佐世保と名古屋の後で

2015-05-04 03:17:44 | エリクソンの発達臨床心理

 

 

 
「アイ」の源
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 ある小学校の校長から、学校訪問(定期的な心理面接のための訪問ではなくて、1年に一遍、心理的に困難な子がいて、心理相談をする準備ができているかどうかの確認のための訪問。ついでに申し上げれば、心理的に困難な子がいない学校など、今の日本には皆無です。)「何故なんでしょうか?」と訊かれたことがあります。

 何のことかといえば、昨年の12月に名古屋大の学生が、高齢の女性を殺したり、昨年の7月には、佐世保の高校生が、同級生を殺したりした事件がありましたでしょ。その時に、「誰でもいいから、殺してみたかった」ということを容疑者の未成年の女性たちが口にしていたから、そんな気持ちになるのは「何故なんでしょうか?」ということでした。しかも、この2人の少女は、学校では「勉強ができる優等生」ということでしたから、ふつうは、「生徒指導」の対象ではないでしょ。ちょっと変わったことがあっても、「お勉強ができる頭の良い子だから」ということで、小学校などでも、教員の「マーク外」、「想定外」の児童・生徒ということになるでしょう。だから、この校長にすれば「?」ということになったのでした。

 私は、この校長は「えらい」と感心しましたね。普通は新聞やテレビの話と、自分の日常生活は結びつけません。新聞やテレビの世界は、「他人事」。「私には関係ございません」という顔をしている人がほとんどでしょ。しかし、この校長は違いました。「もしかしたら、自分たちの日々の働きと、この大事件の容疑者の少女たちと、関係があるかもしれない」と感じればこその、質問だったはずてすよね。

 私は、そういうときには、根源的不信感の話をすることにしています。まぁ、どんな場合でも、根源的信頼感と根源的不信感の話を、現実にはするんですがね。私の「一張羅」、「バカの一つ覚え」でもある訳なんですね。この時も、根源的不信感についてお話しましたね。「赤ちゃんの時に、お母さんとの関係で、赤ちゃんがオッパイやオシメやあやしてほしい時に、お母さんがタイミング良く応えることが、繰り返しできない時、それが、何百、何千、何万回も繰り返されるときに、その赤ちゃんの心にできる傾向が、根源的不信感で、それは『自分には値打ちがない、ガラクタだ」という感じと、『どうせこの母親は(それから、その他の人も、世の中も)当てにはならない』という感じを足した感じが心の底に、通奏低音のごとく、一生残りかねない上に、普段はなかなか気付きもしない、最も根源的な心の傾向として残るんですね」と、まぁ、そんな感じの話をいたします(話が長いでしょ)。そして、続けます。「そういう人は、自分が『生きてる』って実感が弱いんですね。ですから、人と比べて、自分が優位になった、と感じる(正確には、錯覚する)時にだけ、ほんの瞬間、ほんの束の間、『生きてる』って実感出来るんです。ですから、そういう子は、勉強でも、喧嘩でも「勝ちにこだわる」負けず嫌いになります。だから、ひとより『目立ちたい』とか、『負けられない』と強迫的な行動するようになります。また、自分より弱い存在を虐めたり、殺したりする時だけ『生きてる』という感じを実感するんです」と言います。さらに話が続きます。そして、「その根源的不信感は、どなたにも、校長にも私にもあるんですね」と。これでワンセットのお話が終了です。

 でも、これじゃぁ、単なるお話、解説であって、じゃぁ、その質問の主の校長は、ことの次第は分かっても、自分らがどうすればいいのかは分からないままでしょ。ですから、さらに話が続きます(いっそう話が長くなりますね)。「じゃぁ、どうすれば、根源的信頼感を少しでも回復でかるのか? が大事になりますね。それは、その子のお話に真摯に耳を傾けることです。ことばを換えて申し上げれば、その子と楽しい時間を共に過ごすことです」ということです。

 それが「アイ」と生み出す。

 猟奇的事件を起こすような人の子ども時代は、この「楽しい時間」が極端に少ないはずです。でも、子ども時代の「楽しい時間」が極端に少ない人はね、何も猟奇的事件を起こした人だけじゃぁないのが、今の日本の背筋も凍る現実です。

 

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