昨日二十八日は日中ずっと家におりましたが、夜になって出掛けました。
新松戸で一番よく行くショットバーのチーフバーテンダーA君が年内で辞めるからです。
この店に入ったのは引っ越してきて間もないころでした。居酒屋やスナックではまずお目にかかれないアイリッシュウィスキーがあったので、乏しい稼ぎをやりくりしながら、贔屓の店にしようと思いました。
二度目に行ったのは一か月後です。
おぢさん(私です)がドアを開けるなり、A君は「○○さん、どうも……」とワタクシの本名で呼び掛けてくれるではありませんか。
たった二度目なんですよ。しかも、前回から一か月も経っていたのですよ。
仲よくなってから、もっと驚くような場面に何度か出くわしました。
そのうちの一つは妙齢の女性-薄暗い店なので、女性はみんな妙齢に見えます-がブラリと入ってきたときのことです。
A君、にこやかに笑いかけながら、「いらっしゃい……○○ちゃん?」と、かすかに自信なげに呼びかけました。妙齢の女性は「わぁ」といって、両手で口を覆いました。愕き+悦びの表情です。
聞くと、その妙齢がこの店にきたのはおよそ一年も前―。しかも、そのときたった一度きり……というのですから、開いた口が塞がりません。
イチゲンの客はあまりこない店ですが、一年も前の客の名前まで憶えているとは、おそれ入谷の鬼子母神です。
店のオーナーにいわせると、「取り柄はそれしかない」ということですが、それしかない取り柄だとしても、大変な取り柄です。
そのA君。何年か前まで歌舞伎町の超有名ホストクラブのホストだったそうです。テレビに出ている城咲仁は同じ店の後輩になるそうです。
月に二度三度と顔を合わせているうち、ホスト時代のつもる話をいろいろ聞きました。身の毛もよだつような話、心臓が縮み上がるような話もたくさん聞きました。
おぢさんは若いころは週刊誌の記者をしていたのですが、状況はまったく違うといえども、同じように身の毛もよだつような体験、心臓が縮み上がるような体験をしています。年齢は倍くらい違いますが、「同士」に会ったような思いを懐きました。
そのA君が行く年とともに辞めてしまう。
名残惜しい想いは多々あれど、いつまでも坐っていても詮方なし……。A君は今日月曜日は休み。明日三十日が最後の勤めになります。しかし行かないゾ。
おぢさんは早めに引き揚げることにして、少し涙を浮かべながら家に帰りました、とさ。