新たに移った新居近くにも「とちのき通り」という名の街路があります。
「近くにも」というのは、火事に遭って転居を余儀なくされる前に棲んでいた旧居近くにも同じ名の通りがあったからです。ともに街路樹にトチノキが植えられているのでつけられた名前というわけで、二本の通りはまったくの別物、繋がっているわけでもなく、関連があるのでもありません。
ただ、新しく知ったとちのき通りのほうは、新坂川右岸から坂川左岸を一直線に結ぶ全長1・3キロほどの道路ですが、買い物とか散策とかで足を向けるような用向きのある方角ではないので、地図で名前を知って、そのうちに、などと思いながら、最近まで歩いてみたことがありませんでした。
で、日々の散歩のついでに、少し足を延ばして歩いてみようかというわけです。
私にはすっかり馴染みとなっている栃の樹影と葉です。
のんびりと歩いているうちに、オヤ(?)と思うものを見つけました。一本だけ赤い花をつけた樹が混じっていたのです。
居並んでいる栃の樹々と較べると、丈も低いし、幹も細くて貧弱です。栃は桜や杏などとは違って、花を目当てに見に行くような樹ではないし、ときどき歩いていた前のとちのき通りも、たまたま花の季節には歩かなかったのか、実物を見たことはありませんが、樹木図鑑で花の色は白だと知っていました。そこに異例の紅い花……。しかも樹高、樹影から見て、絶対に栃ではない。
なぜにとちのき通りに栃ではない樹が……と首を傾げながら、さらに歩くと、もう一本ありました。花は別として、葉っぱを見ると、いささか小ぶりではありますが、栃に似ています。
庵に帰り、手持ちの樹木図鑑を紐解いてみると、ベニバナトチノキ(紅花栃の木)という項目があって、北米原産のアカバナトチノキとヨーロッパ原産のセイヨウトチノキ(フランスでの呼称・マロニエといったほうがとおりがよいかもしれません)との交雑種だということがわかりました。
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