細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(122)「便利な鉄道」 北 拓豊 (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-01-21 08:33:05 | 教育のこと

「便利な鉄道」 北 拓豊

 「一度、決まってしまったことは、そう簡単には元に戻したり、変更したりすることはできない」という性質を表す「経路依存性」という言葉。今回の講義でこの言葉を聞いた時、私の中で真っ先に思い浮かんだのは日本における鉄道の軌間だ(講義資料中の引用にも載ってはいたが)。ご存知の通り日本の鉄道の軌間には主に1067mmの狭軌と1435mmの標準軌2種類が存在し、このうち特に多くの路線で使われているのが1067mmの狭軌である。しかしながら、名前からもわかるように世界的には(特に先進国では)1435mmの標準軌を使うのが主流であり、日本は少々特異な存在となっている。とはいえ日本においても安定性の高い標準軌で敷設された路線は一定数存在し、新幹線,京急線,関西の私鉄各線などがそれに該当する。このように複数の軌間の路線が混在している状況では、当然それらの路線を互いにそのまま直通させることはできない。直通させる方法はなくもないが、改軌工事は列車を長期間運休させることになる、フリーゲージトレインの開発は技術的にまだ難しい、と現実的ではない。唯一現実的な策である三線/四線軌条も、運行頻度の高い都心部では保守の面から好ましくない。現在計画段階にある新線、東急と京急を蒲田で直通させる通称「蒲蒲線」は、以上のような大きな障壁も一つの原因となって事業着手に至れていない。日本初の鉄道が標準軌で敷設されてさえいれば、今頃もっと便利な鉄道網が形成されていたのかもしれない。

 と言いたいところであるが、果たして本当に直通することは良いことなのだろうか。確かに最初から全部標準軌で敷設されてさえいれば、もっと合理的な鉄道の運行ができていたかもしれない。ただそれとは別に、営業列車を直通運転させまくっている今の首都圏の鉄道のあり方には私は結構な不満を抱いている。先ほど例に挙げた蒲蒲線なんてものが開通してしまえば、羽田空港から渋谷,新宿,池袋を通って埼玉の方まで直通できてしまう。非常に便利だ。でもひとたび天空橋あたりで電車がヒトを跳ね飛ばしてしまえば、その影響は瞬く間に千葉や埼玉にまで及んでしまう。社局を跨がなくても同じことだ。JRの湘南新宿ラインや上野東京ラインで直通している路線なんて毎日のように遅延している。遠路はるばる埼玉の方から通う横国生の嘆きのツイートを見ていてかわいそうになってくる。確かに直通は魅力的な面が多い。遠方の観光地への旅客誘致にも繋がる。それでも遅延が頻発しているようでは効果は大幅に低下する。やたらめったら直通させまくるのではなく、直通列車は有料列車くらいにしてあとは対面乗り換えに留めるなり運転系統が交わらないようにするなり、工夫をしていかなければ日本が誇る鉄道の定時性は下がってしまう。複雑に絡み合い便利に見えるその路線は本当に直通が必要なのか、考え直してみてもらいたい。

 


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