春の訪れ
今年も春が訪ねてくる。里山は華やぎを増してくる。山にひとり静かに咲く梅は小町の肌のようにほのかな紅の中にしっとりと白い。
西行法師のように歌を詠めればいいのだけれど、不肖不才の我が身を嘆いても仕方がない。歌の修行を積んでせめて師のその影でも踏みたい切ない気持ちはあるけれども。
我が師、西行法師の御歌四首を今日の記憶とともに。
題しらず
756 さらぬだに 世のはかなさを 思ふ身に
ぬえ鳴きわたる あけぼのの空
そうでなくても、この世のはかなさを思い沁みている私に、
ぬえこどりのか細い鳴き声が、追い討ちをかけるように、夜明けの空に聴こえてくる。
法師の心の痛みが伝わってくる。
759 世の中を 夢と見る見る はかなくも
なほ驚かぬ わが心かな
この世を夢のようにはかないものと知りながら、愚かなことに、
いまだ覚めることもなく悟ることさえできない我が心よ。
760 亡き人も あるを思ふも 世の中は
ねぶりのうちの 夢とこそ見れ
すでにこの世になく時間の彼方に消え去ったあの人も、かってはこの世に私と同じように生きていたことを思うと、すべてが深い眠りのなかの夢のように見える。
薄い紅を染めたようなほの白い梅の花を見て。
1248 色に出でて いつよりものは 思ふぞと
問ふ人あらば いかが答へむ
いつから思い初めてお前の恋心は顔色に出るの、と訊ねる人がいるなら、梅の花よ、あなたはどう答えるのでしょうね。
(短歌の試み)
薄い紅を染めたほの白い梅の花の 野山に咲いているのを見て。
薄紅の唐衣着なれし小梅 小町が面影宿しつ 野に佇みし
気にかかっていたジャガイモの仮り植えを今日ようやく終えた。桃の木とイチジクは木の芽の膨らみから根付き始めたのは何とか確認できた。木の堅い柿はまだわからない。