串本町沿岸に広がるミドリイシ属のサンゴ群集
海底で掘削したサンゴの堆積物を手に、研究成果を説明する本郷さん
潮岬沖の海中で行われた調査
ジオパークなど 国際誌に論文
串本町沿岸にサンゴ群集が生息し始めたのは、遅くとも約7300年前であることがわかったと県立南紀熊野ジオパークセンターや和歌山大などの研究チームが発表した。黒潮が北上し、海水温が上がった時期だった。論文が国際専門誌に掲載された。
サンゴは温暖な海にすみ、同町沿岸は世界の生息域の北限とされる。ただ、サンゴ群集がいつ形成されたのかは不明だった。この謎に同センター主査研究員で、和歌山大客員准教授の本郷 宙軌ちゅうき さん(45)らのチームが迫った。本郷さんが東北大や国立環境研究所などの専門家に呼びかけた。
チームは2023年12月、同町の潮岬西側約200メートルのダイビングスポット「グラスワールド」付近で、海底に堆積したサンゴを掘削し、持ち帰る調査を実施。放射性炭素年代測定で解析すると、最も深い部分で採取したサンゴ群集は約7300年前に生息していたことがわかった。今はあまり見られないサザナミサンゴ科のサンゴだった。
黒潮の流れが変わり、本州南岸に接近した時期(約8000~7000年前)と符合する。この時期、串本の沿岸域の海水温が上昇し、黒潮に乗ってサンゴの卵や幼生が初めてたどり着いた可能性があるという。
サザナミサンゴ科は、遅くとも約3700年前までは優勢だったようだが、今回の調査ではそれ以降のサンゴの堆積物が見つからなかった。何らかの環境の変化で、この地点で生息できなくなった可能性もある。「テーブルサンゴ」として知られ、現在多く見られるミドリイシ属の生息開始時期も特定できなかった。
本郷さんによると、熱帯や亜熱帯の海域で近年、地球温暖化などに伴って、サンゴの「白化現象」が頻発している。大規模なサンゴ群集としては、世界で最も北に位置する温帯域の同町沿岸は避難場所として注目されているという。
「成果は気候変動によってサンゴが受ける影響を予測する基礎的な知見になる。全ての生息過程の解明を目指して研究を続けたい」と話す。