斎藤大器容疑者(33)
不具合を指摘する「点検商法」の手口で、大阪の住宅リフォーム会社が屋根の工事を違法に勧誘していた事件で、京都府警はすでに逮捕していた会社の実質的なトップとみられる投資家が、ほかにも違法な勧誘に関わったとして、再逮捕しました。
警察は、SNSで実行役を集めて犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」による事件とみてさらに実態を調べています。
再逮捕されたのは、ネット上で「牛飼」の名前で投資家として活動する兵庫県芦屋市の斎藤大器容疑者(33)です。
警察によりますと、斎藤容疑者は、去年9月から11月にかけて、大阪・中央区の住宅リフォーム会社、「新日立建託」の社長らとともに、京都府内の住宅の屋根の修繕工事を勧誘する際、契約を解除できる「クーリングオフ」について説明せずに契約させていたなどとして、特定商取引法違反の疑いが持たれています。
会社をめぐっては、京都府や兵庫県で違法な勧誘をしていたとして斎藤容疑者のほか会社の社長と従業員などがこれまでに特定商取引法違反の疑いで逮捕されていました。
警察によりますと、斎藤容疑者は「オーナー」と呼ばれ、会社の資本金を出資し、勧誘を行うアルバイトを面接したり、売り上げの一部を受け取ったりするなど、会社の実質的なトップとみられています。
勧誘を行うアルバイトは40人ほどいたとみられ、不具合を指摘する「点検商法」の手口で高額な工事を契約させ、売り上げは2億8000万円にのぼるとみられています。
アルバイトの募集は、斎藤容疑者のものとみられるSNSなどで行われていたということで、警察は、SNSで実行役を集めて犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」による事件とみて実態をさらに調べています。
警察は、捜査に支障があるとして、容疑者の認否を明らかにしていません。
【事件の経緯は】
京都府警によりますと、京都府内では去年9月から11月にかけて、「屋根の修理を勧誘する不審な業者がいる」といった通報がおよそ300件寄せられていました。
捜査を進めた結果、大阪・中央区の住宅リフォーム会社、「新日立建託」が京都府や兵庫県で屋根の修繕工事を勧誘する際、契約を解除できる「クーリングオフ」について、説明しなかった疑いなどがあることがわかり、去年11月から今月(3月)にかけて社長と従業員などを特定商取引法違反の疑いで逮捕しました。
警察によりますと、訪問営業を行うアルバイトがまず屋根の点検を勧誘し、その後、「親方」と呼ばれる社長と従業員が実際に点検を行う段取りになっていて、屋根に不具合があり危険な状態だなどと不安をあおっていたということです。
アルバイトは、SNSを通じて九州や関東など全国から40人ほどを集めていたとみられ、不具合を指摘する「点検商法」の手口で高額な工事の契約を繰り返し、売り上げは、2億8000万円にのぼるとみられるということです。
そして、その後の警察の捜査で、会社の資本金を出資し「オーナー」と呼ばれていた、兵庫県芦屋市の投資家の斎藤大器容疑者(33)が、アルバイトの面接をしたり売り上げの一部を受け取ったりするなど、会社の実質的なトップとみられることがわかり、先月(2月)、特定商取引法違反の疑いで逮捕し、3月11日再逮捕しました。
警察は、SNSで実行役を集めて犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」による事件とみて実態を調べています。
【勧誘役募集の手口】
逮捕された斎藤容疑者は、投資家として活動していて、容疑者のものとみられるSNSには、高級車に乗ったり、宝飾品を身につけたりした写真が多数投稿されています。
インスタグラムや「Tiktok」に投稿された動画では、「きょうは何億稼ごうか」などというナレーションで生活の一部を紹介したり、6億円で購入したという兵庫県芦屋市の邸宅などを紹介したりしていて、動画のコメント欄には、「うらやましい。成功者だな」とか「どうしたらこんなお金持ちになれるんですか」とか、「この人のもとで働きたい」といった書き込みが寄せられています。
アルバイトの募集はこうした投稿の中で行われていて、営業職として、「年収1億円可能」とか、「入社1か月で50万超多数」、「ついてくれば月収100万円超は約束します!」などと記し、高額な収入が得られると勧誘しています。
警察の捜査では、投稿に引きつけられて応募したというケースも確認されていて、アルバイトは若者を中心に、東北から九州まで全国から40人ほどが集まっていたということです。
一方、アルバイト募集の時点では、具体的な業務の内容は明かされていなかったとみられています。
警察が事情を聞くことができたアルバイトなどが説明した、応募から現場で訪問営業をするまでの流れです。
応募した人はまず、大阪府内の高級ホテルやタワーマンションのロビーなどを指定され、斎藤容疑者などから採用面接を受けるということです。
面接では、斎藤容疑者から「最近入った子でも1000万は稼いでいる」などと言われたアルバイトもいたということです。採用されると、斎藤容疑者の邸宅で研修を受けることになりますが、アルバイトは、面接やこの研修で業務がリフォーム会社の訪問営業だと知るということです。
研修では点検商法の勧誘マニュアルを渡され、「職人になりきれ」とか「徹夜で覚えろ」などと指示されたアルバイトもいるということです。
会社では兵庫県尼崎市の3か所のマンションに合わせて3部屋の寮を設け、アルバイトたちは寮を拠点に各地の営業現場に車で移動していたということです。
斎藤容疑者は会社では「オーナー」などと呼ばれ、アルバイトたちをオンラインで激励することもあったということです。
警察は、高収入を得られるとあおって勧誘の実行役を確保していたとみて実態をさらに調べています。
【勧誘マニュアルの内容は】
警察は、大阪市の住宅リフォーム会社の「新日立建託」の関係先の捜索で、複数の勧誘マニュアルを押収しました。
勧誘マニュアルは「トークスクリプト」と呼ばれ、不具合を指摘して不安をあおり、契約につなげる流れが具体的に記されています。
その内容です。
訪問する際は、まず近所で別の工事をしている職人だと名乗り、「屋根の鉄板が外れかけていますが、気づいていますか」と切り出します。
そのうえで、「非常に危険な状態です。場所を教えるので確認しに来てください」と伝え相手を家の外に誘導します。
そして、鉄板が外れかけているとする部分を指し示し、「飛んでいって人に当たると危ない」とか、「隙間から水が入り、中が腐っているかもしれない」などと危険性を強調します。
相手が考え込めば、▽「きょうあすにでもみないと次の雨や強風ではもたない」などと、緊急性があるかのように言ったり、▽能登半島地震で倒壊した家のほとんどが屋根のバランスが悪かったことが原因だったので必ず直したほうがよいなどとうそを言ったりして不安をあおり契約につなげるよう細かく指南されています。
マニュアルはノートに手書きで何度も同じ内容が書かれたものも見つかっていて、警察は、会社がアルバイトに書き写させ覚えさせていたとみています。
【訪問営業を受けた女性は】
大阪市の住宅リフォーム会社、「新日立建託」の訪問営業を受けた京都府内の60代の女性です。
訪問を受けたのは去年9月でした。
昼前にインターホンが鳴り、「近所に工事に入っている者ですが、お宅を見たら屋根が危ない状態だったので、よかったら無料で見ましょうか」と点検を勧誘されました。
外に出てみると、作業服姿の青年が立っていて、「近くに親方がいるので点検するならのちほど一緒に来ます」と話し会社名も名乗りました。
「爽やかで印象がよく、言っていることに違和感もなかった」という青年。
女性の家は築後25年で手入れが必要だという自覚があったため、点検を依頼することにしました。
数時間後、青年がはしごを担いだ「親方」とともに、再び現れました。
「親方」ははしごで屋根に上り、しばらくして降りてくると、いま撮影したという画像を10枚ほどタブレット端末で示しながら説明を始めました。
「スレート屋根の継ぎ目が浮いていて、そこから雨漏りすると屋根の下の木材が腐るおそれがある」。
そのうえで、工事は早いほうがよいと勧められました。
女性は、「実際事実だろうと思ったので、納得しました。急いだほうがよいと言われると工事をしたほうがよいかなという気持ちになりました」と振り返ります。
15分ほどで見積もられた工事代金は200万円あまり。
女性はその場で工事の契約書にサインしました。
しかし、会社が早く工事をしたいとせかしてきたことなどを不審に思い、家を建てた住宅会社に相談しました。
住宅会社に改めて点検してもらった結果、わかったのは、屋根の木材が腐る心配はなく、すぐに工事する必要がないという事実でした。
女性は消費生活センターに相談して、すぐにクーリングオフの手続きを行い、工事の契約を解除することができました。
だまされたことについて女性は、「意外と私たちも自分はしっかりしていると思っているので、まさか私がと思いました」と今でも信じられないといいます。
そのうえで、どうすればだまされずにすんだかについては、「もう少し慎重にならないといけなかったと思いました。日を置くなどいったん考える時間をとり、その場でサインをしない、すぐに契約をしないことが一番だと思います」と話しています。