久しぶり週刊VOCALOIDランキング覗いて新曲を探してみたら、とてもいい曲があった。こういうアップテンポで、歌詞でたくさん韻踏んでいて気持ちいい曲は好みのど真ん中だ。1週間ほどで殿堂入り(10万再生を記録)をし、今週1位になったようだ。早速歌い手さんが「歌ってみた」動画をアップしている。男性のものが多い。腹話さんのもの(※ニコニコ動画のアカウントが必要です)が上手なうえに個性が出ていておすすめだ。
【参考リンク集】
歌詞等曲情報はこちら→初音ミクwiki「裏表ラバーズ」
ニコニコの元動画はこちら 作曲者(現実逃避Pさん)のブログはこちら
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濱口桂一郎著『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』岩波新書・2009年
学生の分際で先生方の文献を分類するのは無礼なことであるが、資料集めのとき著者の文献は「信頼できる」カテゴリに入れる。著者はヨーロッパの政策に通暁し、ブログで一般向けにも積極的に情報発信しており、時に他のブログ(池田信夫氏)とケンカしている。先日、飲み会の前にふと本屋に立ち寄った際にこの本を見つけて、序章を読んで買うことを即決した。序章では日本の雇用システムの特徴を述べているのだが、この記述が見事に整理されていたからだ。
これまで私は、解雇規制を出発点として挙げ、これと整合的にするために他の部分(配転や労働時間・労働条件変更)を犠牲にする仕組みで、戦時中から高度経済成長期にかけて歴史的に確立していった、という感じで説明することにしていた。これに対し本書では、欧米の「ジョブ型」と対比して日本の雇用は「メンバーシップ型」であると位置づけ、その帰結として各種の特徴を導き出す。「メンバーシップ型」というのは、具体的にどういう職務をするのか明らかでないまま労働者は使用者に言われたことを何でもやることを約束するというもので、「労働契約の白地性」として指摘されてきたものだ。これがどのように働くか、いくつかの点について整理すると次のようになるだろう。
日本の雇用は会社へのメンバーシップの獲得である
→1:職務がなくなっても異動の可能性がある限り解雇できない(解雇制限)
→2:職務が特定されていないから職務を賃金の基準にできない(年功賃金)
→3:職務が明確でないから産業別で条件を揃えるのが難しい(企業別組合)
→4:労働者は頻繁に職務を変えるので専門性が身につかず転職しにくくなる
→5:労働者個人の職務の範囲が無限となり長時間労働になる
→6:メンバーでない非正規・女性労働者の待遇は著しく低い
解雇規制からスタートするとこれを緩和すれば他の部分も変わっていくという発想になりやすいが、メンバーシップの観点から説明するとそう容易い問題ではないと気付かされる。以上のことを前提として、第1章は正社員の長時間労働、第2章は非正規労働者の待遇、第3章は賃金体系と社会保障制度、第4章は労使協議のあり方・立法協議のあり方という現在の労働社会の大きな問題点を整理し、解決策の提案がされている。
各種解決策の特徴としては、実現性を重視して、抜本的な変更というより現状の修正という性格が強いことが指摘できる。例えば、正規と非正規の格差是正について「同一労働同一賃金」を目指すといっても日本では「同一労働」の物差しが作りにくい、それでは勤続期間をひとつの指標にしてはどうか、という主張や、労働者代表組織について非自発的結社・使用者からの独立性等の性質をもつ組織が必要としながら、企業別組合の存在に照らすと非正規労働者を包括した企業別組合が唯一の可能性である、といった主張が挙げられる。そのために、進むべき方向性を明快な一言で表すことが難しく、各論ごとに丁寧にみていく必要がある。専門的議論としては実に適切なことだが、一般向けの訴求力という点においてはあまり強くないのでは、と感じた。
ジョブ型雇用契約の並行導入
以上が本の紹介で、上手にまとめきれず忸怩たる思いなのだが、日本の労働問題について関心があったらぜひとも手にとって、一度字面を追うだけでなく精読を試みてほしい。以下では、本書を読んで個人的に考えてみた方策を書いてみることにする。その概要は、日本の雇用の本質はメンバーシップ型であるという点に鑑み、その対置として欧米式の職務を基準としたジョブ型雇用契約に適合した法制を並行して敷き、企業によって方式を選択できるようにし、雇用に関する異なる契約形態で制度間競争をしてみよう、というものだ。ジョブ型、すなわち職務を明確にしその範囲でのみ労働者が義務を負う形態での法制としては、次のようなものが考えられる。
・採用における年齢差別及び性差別禁止の厳格化
・同一労働同一賃金の徹底
・配転について労働者個別の同意が必要
・労働時間規制の厳格化(逆に柔軟化?)
・職務がなくなったことによる解雇は正当な理由として認める
・子ども手当・住宅手当等の公的な生活支援の(追加)支給対象とする
・公的な職業訓練との連携を強化/教育訓練給付制度の強化
・労使委員会の形成義務・産業間のつながり
・メンバーシップ型からの移行に際しては賃金後払い分の清算金を支払う必要あり
このような方策を考えた理由としては、第一に、メンバーシップ型という基本を堅持する以上、非正規で長期間働いてきた人が正規雇用のルートに乗ることは非常に難しく、均衡処遇によって賃金格差が少し是正されるくらいで、絶望の境遇は根本的には変わらないのではないかと思ったからである。ジョブ型だと企業にとっては採用して一生面倒をみることは求められないから、必要な職務を遂行できるかどうかという観点で人材を集めることができ、労働者にとっても年齢に関わらず、職業訓練を積んで能力を得れば採用にこぎつけることができるようになる。
第二に、いわゆる高学歴難民のミスマッチとして専門性を生かす具体的な職務を求める希望に答えるものが日本型の採用方式では用意されていないということもある。第三には、若年者にとって定年まで会社が存続していると期待するには心もとない競争環境があり(少なくとも再編が何度かあり会社名も変わるだろう)、長期雇用の下で賃金を後から取り返す仕組みではモチベーションが上がっていない、ということがある。自ら他でも通用する能力を養っていくほうが若年者の希望に応えるのではないか。また、職務の範囲を明確化することで労働時間の長時間化も防ぎやすくなり、ワークライフバランスが図られ、若年者のライフスタイルにも合致しよう。その一方で賃金では生活保障の性格が薄くなるため公的な補助が必要となるし、不況時の失業も出やすくなるのでその際の生活保障も公的な仕組みで用意する必要がある。
具体化しようとすると困難は非常に多い。解雇規制の緩和は魅力的で、新しく日本に参入する外資系企業にとっては自国の流儀が多く通用するということで採用するかもしれないが、いわゆる「日本的雇用」の根本を異にするので反発も多いだろう。どちらがより高い生産性を挙げることができるかは制度間競争で試すことになるが、同一労働の基準や産業別の合意を図るための労使協議の基盤形成では、最初の段階で多くの企業が採用するに至らないと、基本的な部分が確立できないことになる。行政や司法が代わりの役割を一時的にでも果たすことができるかは不明である。
簡単な思いつきから色々と考えを進めていってしまった。こういう場合、難題にぶつかっておじゃんになるのが常で、今回もそういう感じになってしまっているのだが(mixiで友人向けに議論提起してみたほうがよかったかも)、偶々これを読んでくれた方が鮮やかな発想で何か新しいものを生んでくれたらいいな、ということで記事をアップすることにした。
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学生の分際で先生方の文献を分類するのは無礼なことであるが、資料集めのとき著者の文献は「信頼できる」カテゴリに入れる。著者はヨーロッパの政策に通暁し、ブログで一般向けにも積極的に情報発信しており、時に他のブログ(池田信夫氏)とケンカしている。先日、飲み会の前にふと本屋に立ち寄った際にこの本を見つけて、序章を読んで買うことを即決した。序章では日本の雇用システムの特徴を述べているのだが、この記述が見事に整理されていたからだ。
これまで私は、解雇規制を出発点として挙げ、これと整合的にするために他の部分(配転や労働時間・労働条件変更)を犠牲にする仕組みで、戦時中から高度経済成長期にかけて歴史的に確立していった、という感じで説明することにしていた。これに対し本書では、欧米の「ジョブ型」と対比して日本の雇用は「メンバーシップ型」であると位置づけ、その帰結として各種の特徴を導き出す。「メンバーシップ型」というのは、具体的にどういう職務をするのか明らかでないまま労働者は使用者に言われたことを何でもやることを約束するというもので、「労働契約の白地性」として指摘されてきたものだ。これがどのように働くか、いくつかの点について整理すると次のようになるだろう。
日本の雇用は会社へのメンバーシップの獲得である
→1:職務がなくなっても異動の可能性がある限り解雇できない(解雇制限)
→2:職務が特定されていないから職務を賃金の基準にできない(年功賃金)
→3:職務が明確でないから産業別で条件を揃えるのが難しい(企業別組合)
→4:労働者は頻繁に職務を変えるので専門性が身につかず転職しにくくなる
→5:労働者個人の職務の範囲が無限となり長時間労働になる
→6:メンバーでない非正規・女性労働者の待遇は著しく低い
解雇規制からスタートするとこれを緩和すれば他の部分も変わっていくという発想になりやすいが、メンバーシップの観点から説明するとそう容易い問題ではないと気付かされる。以上のことを前提として、第1章は正社員の長時間労働、第2章は非正規労働者の待遇、第3章は賃金体系と社会保障制度、第4章は労使協議のあり方・立法協議のあり方という現在の労働社会の大きな問題点を整理し、解決策の提案がされている。
各種解決策の特徴としては、実現性を重視して、抜本的な変更というより現状の修正という性格が強いことが指摘できる。例えば、正規と非正規の格差是正について「同一労働同一賃金」を目指すといっても日本では「同一労働」の物差しが作りにくい、それでは勤続期間をひとつの指標にしてはどうか、という主張や、労働者代表組織について非自発的結社・使用者からの独立性等の性質をもつ組織が必要としながら、企業別組合の存在に照らすと非正規労働者を包括した企業別組合が唯一の可能性である、といった主張が挙げられる。そのために、進むべき方向性を明快な一言で表すことが難しく、各論ごとに丁寧にみていく必要がある。専門的議論としては実に適切なことだが、一般向けの訴求力という点においてはあまり強くないのでは、と感じた。
ジョブ型雇用契約の並行導入
以上が本の紹介で、上手にまとめきれず忸怩たる思いなのだが、日本の労働問題について関心があったらぜひとも手にとって、一度字面を追うだけでなく精読を試みてほしい。以下では、本書を読んで個人的に考えてみた方策を書いてみることにする。その概要は、日本の雇用の本質はメンバーシップ型であるという点に鑑み、その対置として欧米式の職務を基準としたジョブ型雇用契約に適合した法制を並行して敷き、企業によって方式を選択できるようにし、雇用に関する異なる契約形態で制度間競争をしてみよう、というものだ。ジョブ型、すなわち職務を明確にしその範囲でのみ労働者が義務を負う形態での法制としては、次のようなものが考えられる。
・採用における年齢差別及び性差別禁止の厳格化
・同一労働同一賃金の徹底
・配転について労働者個別の同意が必要
・労働時間規制の厳格化(逆に柔軟化?)
・職務がなくなったことによる解雇は正当な理由として認める
・子ども手当・住宅手当等の公的な生活支援の(追加)支給対象とする
・公的な職業訓練との連携を強化/教育訓練給付制度の強化
・労使委員会の形成義務・産業間のつながり
・メンバーシップ型からの移行に際しては賃金後払い分の清算金を支払う必要あり
このような方策を考えた理由としては、第一に、メンバーシップ型という基本を堅持する以上、非正規で長期間働いてきた人が正規雇用のルートに乗ることは非常に難しく、均衡処遇によって賃金格差が少し是正されるくらいで、絶望の境遇は根本的には変わらないのではないかと思ったからである。ジョブ型だと企業にとっては採用して一生面倒をみることは求められないから、必要な職務を遂行できるかどうかという観点で人材を集めることができ、労働者にとっても年齢に関わらず、職業訓練を積んで能力を得れば採用にこぎつけることができるようになる。
第二に、いわゆる高学歴難民のミスマッチとして専門性を生かす具体的な職務を求める希望に答えるものが日本型の採用方式では用意されていないということもある。第三には、若年者にとって定年まで会社が存続していると期待するには心もとない競争環境があり(少なくとも再編が何度かあり会社名も変わるだろう)、長期雇用の下で賃金を後から取り返す仕組みではモチベーションが上がっていない、ということがある。自ら他でも通用する能力を養っていくほうが若年者の希望に応えるのではないか。また、職務の範囲を明確化することで労働時間の長時間化も防ぎやすくなり、ワークライフバランスが図られ、若年者のライフスタイルにも合致しよう。その一方で賃金では生活保障の性格が薄くなるため公的な補助が必要となるし、不況時の失業も出やすくなるのでその際の生活保障も公的な仕組みで用意する必要がある。
具体化しようとすると困難は非常に多い。解雇規制の緩和は魅力的で、新しく日本に参入する外資系企業にとっては自国の流儀が多く通用するということで採用するかもしれないが、いわゆる「日本的雇用」の根本を異にするので反発も多いだろう。どちらがより高い生産性を挙げることができるかは制度間競争で試すことになるが、同一労働の基準や産業別の合意を図るための労使協議の基盤形成では、最初の段階で多くの企業が採用するに至らないと、基本的な部分が確立できないことになる。行政や司法が代わりの役割を一時的にでも果たすことができるかは不明である。
簡単な思いつきから色々と考えを進めていってしまった。こういう場合、難題にぶつかっておじゃんになるのが常で、今回もそういう感じになってしまっているのだが(mixiで友人向けに議論提起してみたほうがよかったかも)、偶々これを読んでくれた方が鮮やかな発想で何か新しいものを生んでくれたらいいな、ということで記事をアップすることにした。
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