元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フラガール」

2006-11-04 08:11:44 | 映画の感想(は行)

 快作だと思う。もちろん、欠点が多いのは認める。昭和41年にオープンした常磐ハワイアンセンターで艶姿を披露するフラガールたちの誕生秘話を描く本作、中盤まで盛り上がらないのはエピソードの積み上げ方が散漫であるからだ。

 映画冒頭で登場する早苗という少女が、親友の紀美子を無理矢理にフラダンスのレッスンに誘うことで物語は始まるが、どういうわけか早苗は途中で舞台になる炭鉱街からいなくなり、続いて講師として東京から来た元SKDのダンサーの話や、紀美子の家族の様子や、ハワイアンセンターに再就職する社員と炭鉱に残っている者との確執などが細切れ式に並べられ、ドラマの中心がまるで見えない。しかも、随所にわざとらしい“泣かせ”のシーンが挿入されているのも興醒めだ。

 しかし、それでもこの映画が魅力的なのは、不器用な連中が頑張って何かをやり遂げるという青春スポ根ドラマの王道を歩んでいることはもちろん、何より昭和へのノスタルジーに過度に寄りかかっていないからである。セピア調の画面で映し出される当時の風俗の描写は懐かしいが、同時に時代の流れに翻弄される“痛み”を鮮明に打ち出しているところがポイントが高い。これは現在にも通じる構図であり、懐古趣味べったりの陳腐な人情劇でしかない「ALWAYS 三丁目の夕日」とは大きく違う点だ。

 李相日の演出は欲張った脚本に足を取られているフシがあるが、なんとか2時間保たせている。松雪泰子や豊川悦司、岸部一徳、富司純子といった出演陣も無理のない好演だ。

 そして何と言っても、それまでのモタつきをブッ飛ばすクライマックスの公演シーン。まるでスクリーンに“祭り”が出現したかのごとく、目もくらむような盛り上がりだ。これを見るだけでも入場料のモトを十二分に取れるだろう。特にリーダー格の蒼井優のパフォーマンスには、単に“感心した”というレベルを超えてマジに圧倒される。「花とアリス」でもバレエを披露していたが、この身体能力の高さは逸材が目立つ同世代の女優の中にあって大きなアドバンテージになろう。次回はアクション映画などにも挑戦して欲しい。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする