(原題:WORLD TRADE CENTER)いくらオリヴァー・ストーン監督といえども、現時点でこのテーマを扱うとすると、こういう内容にするしかないのかと、肩透かしを食らったと同時に納得も出来た。
瓦礫の下敷きになった二人の警官と、その家族の苦悶を鮮明に描こうとするこの作品、そもそも窮地に追い込まれた二人はヒロイックな働きをしたわけではなく、現場に向かう途中の、いわばまだ“何もしていない状態”で被災しているので、ハリウッド映画的なカタルシスは皆無に近い。ただ延々と瓦礫に埋まって七転八倒する彼らを映すだけである。
崩壊するビルと主人公達とを素早い画面切り替えで捉えてスリルを盛り上げる方法もあったはずだが、それすらやっていない。もちろんこれは“無辜の人々が惨事に巻き込まれた”という事件の普遍的な悲劇性を強調する措置である。
ただし映画として面白いかどうかは別問題だ。有り体に言えば、本作に娯楽映画としての面白さを求めるのは筋違いである。これは“映画”ではなく“イベント”だと認識すべきだ。あの事件から5年経った今の時点での“現状報告”なのである。そうである限り、この映画の仕上がりを認めるしかあるまい。ハッタリかましたプロパガンダの洪水であった「華氏911」や、当事者達が生存していないため一からストーリーを積み上げる必要があった「ユナイテッド93」とは作品の性格が違うのだ。
ただし、キリスト教のモチーフを多数挿入したのはやり過ぎかと思われる。大方のアメリカ人にとっては違和感がないのかもしれないが、見ようによってはイデオロギー臭を感じ、愉快になれない。