(原題:16 Blocks)これはひょっとして「ガントレット」(77年)のパクリか? 重大事件の証人を落ちこぼれ刑事が“護送”する設定や、悪い奴が警察内にいることも一緒。御丁寧にバス強奪のエピソードまで共通している。ただし、面白さについては「ガントレット」の圧勝(ちなみに、クリント・イーストウッドの監督作で私が唯一好きな映画だ)。
本作の“証人の移送距離”は16ブロック先の裁判所までで、その短さ(しかも2時間のタイムリミット付き)はアイデア賞ものだが、いかんせん脚本に“愛嬌”がない。敵役は早々に姿をあらわし、あとは単純な追いかけっこに終始。ニューヨークの下町のゴミゴミとした雑踏でのチェイスは目新しいが、10分もすれば飽きてくる。もっと二転三転する仕掛けを用意し、観客をアッと言わせて欲しかった。
ブルース・ウィリスはショボクレた中年オヤジを好演しており、証人役のモス・デフの過度のおしゃべりぶりと好対照。敵役のデイヴィッド・モースも憎々しくて良いが、キャラクターの“立ち具合”で何とかなるような筋書きではないのが辛いところだ。
ただし“人間は変われる”という作品のテーマ自体は悪くない。主人公二人は、この修羅場をくぐったことにより、確実に(良い方向に)人間性が変わってゆく。特にウィリス刑事を見ていると、人間が“変わる”のに(年齢面で)遅すぎることはないのだということを実感できる。上等な映画ではないのに後味が良いのはこのポジティヴな姿勢ゆえだ。ラストショットも気が利いていて悪くない。監督は久々のリチャード・ドナーで、演出面は手堅くまとめられている。