(原題:The Black Dahlia)失敗作である。それでも最近のブライアン・デ・パルマ監督にしては健闘している方だと思う。戦後間もないロスアンジェルスの落ち着かない“空気感”を万全の舞台セットで再現しているし、中盤の羽交い締めから落下に至る驚くべきショットは、かつて“ヒッチコックの継承者”と呼ばれた同監督が久々に気合いの入ったところを見せた名場面だと思う。
しかし、筋書きがあまりにもお粗末・・・・というか、ほとんど何も語っていないに等しい。前半の、思わせぶりに配している数々のモチーフが全く有機的に結び付かず、終盤近くに強引に示される“謎解きらしきもの”にいたっては、まるで支離滅裂。
ひょっとしてデイヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」みたいに謎を謎として放置し、ワケのわからん不条理感を喚起させるという作戦だったのかもしれないが、ここにはリンチ作品のような病的なドス黒さもなければ幻惑的なシークエンス配置の玄妙さもない。ただ未整理のまま散らばっていたネタを、手に負えないので最後に全部まとめてゴミ箱に放り込んだに過ぎない。
致命的なのはケネス・アンガーが「ハリウッド・バビロン」の中で紹介したという惨たらしくも美しい惨殺死体の描写が平板極まりないこと。おかげで作品自体のミステリアス度が限りなく低下してしまった。
キャストも弱体気味で、ジョシュ・ハートネットもアーロン・エッカートも押しの弱い青二才だし、スカーレット・ヨハンソンに至ってはただのコギャルにしか見えない。もちろん主役に若手を使うのはかまわないが、脇に作品のアンカーたるべき重量感のあるベテラン俳優を何人かスタンバイさせておくべきではなかったか。
とにかく、J・エルロイ作品の映画化ということで「L.A.コンフィデンシャル」のような完成度の高さを期待すると完全な肩すかしを食らわされる。