元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブロンクス物語 愛につつまれた街」

2006-11-14 06:45:11 | 映画の感想(は行)
 (原題:A Bronx Tale)94年作品。ロバート・デ・ニーロの監督デビュー作だ。60年代、ニューヨークのブロンクス。イタリア系バス運転手の息子カロジェロは、地道に働く父親よりも肩で風切って街をのし歩くマフィアのボス、ソニー(チャズ・パルミンテリ)に憧れている。ひょんなことからソニーの舎弟となったカロジェロは、ボスや仲間の信頼を得ていくが、父親(デ・ニーロ)は息子が心配でたまらない。イカレた悪友たちとの葛藤や、黒人少女との初恋などを通じカロジェロは大人への階段を上がっていくが、やがてソニーとの悲しい別れが待っていた。

 どちらかというとエキセントリックな役柄が多いデ・ニーロだが、演出に回るとオーソドックスに徹しているのが驚きだ。生々しい“作家性”など微塵も見せず、良質の青春映画のルーティンを守っている。しかも、チンピラたちの殴り込みのシーン絶妙のカッティングや、主人公と恋人が初めて出会う場面の心理描写など、随所に光る演出を見せる。ヘタなハリウッドの職人監督よりは数段上手い仕事ぶりだ。演技者としてのデ・ニーロも、今回は実に自然体で脇を固めている。当時のイタリア移民社会の描き方も的確だ。

 たぶんこれは作者の自伝のつもりで作ったのだろう。自身の生き方の手本となった実直で善良な父親と、もうひとりの父親的存在のマフィアのボスを描くとなれば、無用なケレンやハッタリを駆使するのを控えて当然だ。

 良識ある市民としてマフィアに精一杯の抵抗を試みる父親と“刑務所に入ったのは人生のちょっとした選択の誤りのはずだったが、結局それが道を決めてしまった”と裏社会の本音を語るソニーの二人の“大人”に囲まれた作者の少年時代は、貧しいけど、かけがえのないものだったのだろう。脚本も担当したパルミンテリの好演も光る。
コメント
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