元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくのお日さま」

2024-10-13 06:23:25 | 映画の感想(は行)
 第77回カンヌ国際映画祭の“ある視点”部門に出品されたのをはじめ、国内外での評価が高い作品だが、個人的にはどこが面白いのかよく分からない。有り体に言ってしまえば、これは素人の映画だ。監督は現時点でまだ20歳代で、この時期から分不相応な扱いを受けてしまえば本人のためにはならないのではと、勝手なことを思ってしまった。

 北海道の田舎町に住む小学生のタクヤは、吃音のため周囲とあまりコミュニケーションは取れず、しかも苦手なアイスホッケーのクラブに入れられているという、面白くない日々を送っていた。そんな時、彼は隣のリンクでフィギュアスケートを練習する少女さくらを見て心を奪われてしまう。



 ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似するタクヤを見ていたさくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川は、タクヤとさくらでアイスダンスのコンピを組むことを提案する。最初はぎこちなかった2人だが、次第に上達して大会の出場を打診されるまでになる。ところが荒川には同性の恋人である五十嵐がいて、その事実が周囲に波紋を広げてゆく。

 まず、時代設定が90年代前半であることを冒頭で明かしていないのは失当だ。あの頃はLGBTに対する理解度がまだ低く、ましてやこの土地柄では完全にタブーである。まあ、登場人物たちの身なりや生活パターンなどから現代の話ではないということは推察されるが、観客に対しては不親切だ。

 そして、画面がスタンダードサイズというのも意味不明。北海道の茫洋とした風景をとらえるには適当ではない(せめてビスタサイズにすべき)。ストーリーには面白い部分が見当たらず、タクヤとさくらが上達していく様子も、荒川と五十嵐との睦まじい関係も、平板に流れていくのみだ。終盤の顛末とラストの処理に至っては、作り手が息切れしたのではと思わせるほど盛り上がりに欠ける。

 監督の奥山大史は脚本のほか撮影や編集まで手掛けているが、それが却って映画青年が気負い過ぎて作ったような雰囲気を醸し出していて愉快になれない。荒川役の池松壮亮と相手役の若葉竜也はよくやっていたとは思うが、いつもの彼らの仕事ぶりを知る観客にとっては、特筆できるようなレベルではない。わずかに印象に残ったのが、さくらに扮する中西希亜良だ。アイスダンス経験者ということで、滑る姿が実にサマになっている。そして彼女は何と高名な作詞家のなかにし礼の孫であり、その整った外見も含めて期待できる人材かと思う。

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