元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

中村文則「教団X」

2018-06-22 06:30:45 | 読書感想文
 芥川賞作家である中村文則の作品は、過去に「銃」と「掏摸<スリ>」を読んだことがあるが、大して印象にも残っていない(恥ずかしながら、今となってはストーリーさえ忘却の彼方だ ^^;)。それでも2014年に発表された本書は評判が良かったので、文庫化を機に手に取ってみた次第。しかし、結果として“やっぱりこの作家の本は肌に合わない”という認識を新たにしただけだった。

 主人公の楢崎の交際相手であった立花が、突如として彼の前から消える。彼女を探してたどり着いたのが、松尾という謎の男が主宰する宗教団体だった。もっとも、そこは決して怪しい組織ではなく、単なる親睦会のようなものである。スタッフの話によると、立花は確かにここに所属していたが、本当は別の教団のメンバーで、松尾の団体を攪乱した後に失踪したらしい。楢崎は真相を突き止めるべく、立花が属しているその組織“教団X”に乗り込んでゆく。



 ストーリー設定だけをチェックすると、新興宗教の内実と、そこに集う人々の内面の屈託をヴィヴィッドに描いた小説なのだろうと予想してしまう。だが、実際はまるで異なる。

 600ページにも及ぶ本書のかなりの割合を、松尾による量子力学がどうのこうのとか、神の存在が何だとか、宇宙論がどうしたとか、そんなレクチャーで占められている。しかも、それらが面白いのかというと、断じてそうではない。手前勝手に合点したウンチク(らしきもの)を得々と披露しているだけで、物語に大きく絡んでくることはない。

 “いや、これは娯楽小説ではなく純文学のテイストが濃いので、こういう登場人物のモノローグめいた記述が多いのは当然だ”とする意見があるのかもしれないが、それにしては“教団X”およびその関係者が引き起こす事件は犯罪小説のモチーフそのものであり、純文学とは相容れないと思われる。一方で、長いばかりでちっともエロティックではない性描写が挿入されるのも興趣が削がれる。

 後半は何やら大々的なカタストロフが起こりそうな前振りが成されるにも関わらず、結局は尻すぼみで、取って付けたように終盤では“共生の重要性”らしきものを説いてくるのは鼻白むしかない。登場人物は皆魅力に乏しく、途中で誰がどうなろうと知ったことではない気分になる。文章にはキレもコクもなく、冗長そのもの。しっかりと書けばこの半分以下のページに収まっただろう。正直、最後まで読んで後悔した。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「モリーズ・ゲーム」 | トップ | 「レディ・バード」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書感想文」カテゴリの最新記事