猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ハリー、見知らぬ友人

2021-08-07 22:32:38 | 日記
2000年のフランス映画「ハリー、見知らぬ友人」。

夏のある日、田舎の別荘で休暇を過ごそうと、ミシェル(ローラン・リュカ)は
妻クレール(マティルド・セニエ)と幼い子供たちを連れて車で移動中だった。
休憩のために止まったサービスエリアで、ミシェルは高校の同級生だというハ
リー(ハロルド/セルジ・ロペス)という男性に声をかけられる。ミシェルはハ
リーのことを全く覚えていなかったが、ハリーは親し気に話をする。恋人と車
で旅行中だというハリーは、ミシェルの別荘へ行くことになる。ミシェルが卒
業文集に書いた詩に感銘を受けていたハリーは、作家になれと勧め何かと世話
を焼き出す。だがその親切はやがて狂気へと暴走し始める。

ドミニク・モル監督によるサイコ・サスペンス。フランス語教師のミシェルは
妻クレールと幼い3人の娘たちを連れて別荘に向かっていた。車にはクーラー
がついておらず、子供たちは暑さと退屈でぐずっており、ミシェルとクレール
もイライラしていた。2000年の映画なのにどうして車にクーラーがついてい
ないのだろう、と思った。そんなに古い車なのだろうか。立ち寄ったサービス
エリアで、ミシェルは高校の同級生だというハリーに声をかけられるが、ミシ
ェルは彼のことを全く覚えていなかった。けれども話をしているうちにハリー
と恋人はミシェルの別荘に行くことになる。
最初に思ったのは、ハリーは本当にミシェルの同級生なのだろうか?というこ
と。ミシェルはハリーのことをまるで覚えていないが、ハリーはミシェルのこ
とをよく覚えていて、友達であったかのようにクレールにも話す。そしてミシ
ェルが文集に書いた詩を覚えていて、暗唱までしてみせたので、やっぱり同級
生なのか、と思う。更にミシェルの父親は引退した歯科医なのだが、ハリーは
治療してもらったことがあると言う。なので同級生には違いないようだ。でも
ミシェルにとっては正に「見知らぬ友人」なのである。
クレールはミシェルが昔詩や小説を書いていたことを知らなかった。ハリーは
才能があるのに何故作家にならなかったのかと聞くが、ミシェルはあれは少年
時代の気まぐれだと答える。しかしハリーは作家になることを強く勧めてくる。
そしてやがてハリーの一方的な親切が始まる。ハリーは親の財産を相続してい
てお金持ちだ。ミシェルの別荘は古くてかなり修理をしなければならないのだ
が、ハリーは修理代は出すから執筆活動に専念しろと言い出す。更にエアコン
つきの三菱の四駆までプレゼントするのだ。ミシェルとクレールはそんな高価
なものは受け取れないと言うが、このくらい何でもない、プレゼントさせてく
れと言う。さすがにミシェルとクレールはハリーに不審なものを感じるように
なってくる。親切が度が過ぎているのだ。
一体ハリーの目的は何なのか。自分のことを覚えていない同級生に何故そこま
で親切にするのか。ハリーの正体について、私はもしかしてミシェルの心が生
み出した分身のようなものではないかと思った。ミシェルは実は今でも作家に
なりたいと思っていて、ハリーがその気持ちを代弁しているのではないか。し
かしそう考えると疑問が出てくる。クレールはハリーを実体として認識してお
り、ミシェルの父親もハリーの治療をしたことを覚えているのだ。そうなると
ハリーはやはり実在する人間だということになる。
ハリーは何者なのか、考えれば考える程わからなくなってくる。実在するのか、
それともミシェルの分身なのか。物語はやがて恐ろしい方向へ向かっていく。
ハリーはミシェルを作家にすることで頭が一杯で、そのためには何だってする
ようになり、ミシェルもポツポツと小説を書き始める。ハリーはミシェルの意
志なのだろうか?ドミニク・モル監督は「レミング」という作品も同じように
よくわからない物語だったのだが、こういう映画を作るのが好きなのだろうか。
とにかくハリーが不気味で、よくわからないが、おもしろかった。ラストもフ
ランス映画らしくていい。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング

アウシュヴィッツ・レポート

2021-08-03 22:31:12 | 日記
2020年のスロバキア・チェコ・ドイツ合作映画「アウシュヴィッツ・レポ
ート」を観に行った。

1944年4月のアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。遺体の記録係を
務めるスロバキア系ユダヤ人のアルフレート・ヴェツラー(ノエル・ツツォ
ル)とヴァルター・ローゼンベルク(ぺテル・オンドレイチカ)は、毎日多く
の命が奪われる収容所の惨状を外部に訴えるため脱走を決行。同じ収容棟の
囚人らが過酷な尋問に耐える中、やっとのことで収容所の外に脱出した2人
は国境を目指して山林を歩き続ける。その後救出された2人はアウシュビッ
ツの実態を赤十字職員に告白し、大虐殺の真実を報告書にまとめる。

実話を基にした映画。ホロコーストについて描いた映画はたくさんあるが、
脱走して収容所の内情を世界に知らせるために尽力した囚人たちの映画はそ
うないのではないだろうか。アルフレートとヴァルターはもちろん実在の人
物で、彼らは日々多くの人が殺される収容所の実態を外部に伝えるため、脱
走を実行した。脱走が明るみになり、残された同じ収容棟の囚人たちは何日
も寒空の下で立たされ、執拗な尋問を受けていた。仲間の助け、思いを背負
った2人は、何とか収容所の外に脱走し、ひたすら国境に向けて歩き続けた。
激しい疲労の中、奇跡的に助かり、赤十字によって救出された2人は、赤十
字職員にアウシュヴィッツの信じられない実態を告白し始める。
冒頭から残酷なシーンで、この映画R指定でなくていいのだろうかと思った。
目を覆いたくなるようなシーンは続き、収容所ではユダヤ人たちが人間とし
て扱われていなかったのがよくわかる。皆囚人服を着ているが、大体悪いこ
ともしていないのに何故囚人なのだろう。将校たちが新しく収容されてきた
人たちに、「ここでの最初の任務は名前を忘れることだ。名前はいらない。
数字でいい」と言ったのが印象的だった。こうやってユダヤ人たちはそのア
イデンティティを奪われていったのだ。
アルフレートとヴァルターが逃げている間(最初は隠れていた)、仲間たちは
寒い中囚人服1枚で飲まず食わずで立たされ続け、ガタガタと震えている。
その悲惨な様子に言葉も出ない。殺される者もいた。けれども物語には救い
もあって、アルフレートとヴァルターは森の中で通りすがりの若い女性に食
べ物を恵んでもらったり、彼女の義兄に国境まで案内してもらったりしてい
る。そして老夫婦に助けられ、赤十字に連絡を取ってもらう。
アルフレートとヴァルターは、赤十字に収容所の実態を話しても、あまりに
悲惨すぎて信じてもらえないのではないかと懸念したという。実際話を聞い
た職員はしばらく絶句していた。今でこそ世界中の人々が強制収容所でどん
なにおぞましいことが行われていたか知っているが、当時はあまり外部に漏
れていなかったようだ。アルフレートとヴァルターはタイプライターを渡さ
れ、アウシュヴィッツについてのレポートを完成させる。詳細に書かれたレ
ポートはとても説得力のある内容で、このレポートは連合軍に報告され、結
果12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送される
のを防いだのだという。アルフレートとヴァルターの命がけの逃亡はたくさ
んの人たちの命を救ったが、一方で彼らのために殺された人もいた。決して
繰り返してはいけない歴史である。エンドロールの際に流れる音声がその悲
しみを物語っていた。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング